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Page:Gunshoruiju18.djvu/727

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り。まづ天王寺にまうでたりしに。石のとりゐのもとに光明院阿彌陀寺などむかへにとて出きたれり。すなはちあひともなひて金堂にのぼれり。御舍利を頂戴し。おなじく日本にはじめてわたりし大般若經一卷。夢殿より持來の法華經など拜見し奉る。緣起住僧よみ申す。しづかに聽聞して隨喜の淚をさへがたし。法華經をおがみて。心の中におもひつゞけ侍りし。

 むは玉の夢殿よりやみぬ世をもこゝにつたへし法の言葉

諸堂巡禮。寶藏にて靈寶どもことく拜見。宿緣あさからずありがたくおぼえ侍り。聖靈院にて御影どもおがみたてまつりて。おくのかたみめぐらし侍れば。淨土曼陀羅くち損じてかたばかりなり。これなむ西山上人不斷念佛勸行ありし所なるベきと。往事を感じてなみだをながし侍りぬ。龜井の水を掬て。

 まれにきて結ふ龜ゐのみつからやうききにあへる類なる覽

一和尙みちに出あひて。五首歌奉納し侍りしことをよろこび申され侍り。かくてなにがしととやの坊にてさかづきすゝめて。人々すこしうちやすみて。これより住吉社にまうでて御神樂まいらする。十首歌奉納せしめ。ところどころふしおがみて。神宮寺にまうでて。さらに御前の橋より松原に出て。濱のわたり逍遥して。

 このまゝに住よしといひて故鄉は忘れ貝をもいさや拾はむ

和泉の堺にまかりこゆとて。みちすがらの名ある所どもいひつくすベくもあらぬ見ものなり。霰松原といふ所をすぐとてみれば世のつねの松のはにも似ず。吹からしたるやうにみえ侍れば。

 木枯の吹しほる色とみるはかりなにあらはるゝあられ松原

南庄光明院にいたりて。さまのいたはりもてなされ侍り。夢庵にをとづれしかば。やが