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Page:Gunshoruiju18.djvu/680

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早槻川をすぎて霧雨いまだはれず。

 たひの空晴ぬなかめにうつる日もはやつき河をこゆる白浪

長雨なをはれやらず。四十八ヶ瀨とやらむをはるばるとみわたせるに。をつと云所に侍りて。

 四十あまり八のせなから長雨にひとつうみともなれる比哉

六月十三日越後府中海岸につきぬ。京路にして相なれし正才法師を尋てあまのとまやによをかさぬ。此なぎさちかき所に神さびたるやしろあり。參詣しておがみ侍りしにかの社務はながきさといふ老翁出てこの御神はむかし三韓御進發のときより北海擁護の神たり。居多明神と申奉る。手向すベきよし申侍しかば。

 天の原雲のよそまて八嶋もる神や凉しきおきつしほ風

此國の太守相摸守藤原朝臣上杉房定のきこえに達せしより後は。旅泊の波の聲をきかず。剩旅館を宸勝院といへるにうつされ。樹陰の凉虱袖にあまるほどなり。七夕にいたり。星の手向せしに。當國の歌の濱の名も。梶のはをかさぬベきかずの秋。かぎりしられず覺えて。七夕祝。

 手向せむ幾萬代かこしのうみにとるかちのはの歌のはま風

十四十五夜には善光寺に詣て御堂に通夜し侍る。則彼寺務の宿老。內陳へ導き侍しかば。此身をかへずして淨刹にいたれるかと覺ゆるに。彌陀本願のこゝろを。

 ふり分の草木の雨のすゝしさもむかふるかたの秋の初かせ

をば捨山はいづれの嶺を隔て侍るぞとたづね侍るに。いたりてとをくは侍らねども。山川雲霧かさなりて。此ごろいとあやしき事の侍る道にてなど聞えしかば。只堂前の峯の上よりはるかにながめ侍りて。

 よしさらはみすとも遠くすむ月をおもかけにせん姨捨の山

ちくまがはは御堂の東に流れたり。

 やとり行浪のいつくかちくま河岩まも淸き秋のよの月

明れば越後の府中にをもむきて旅情をなぐさ