このページは校正済みです
正廣日記
世中みだれて後は。宮古に跡をとゞむベきさまにもあらで。大和國泊瀨寺にしる所ありて年月ををくり侍るに。文明五の年八月七日につとめておきはベれば。觀音へまいる人の尋はべるとあるをみれば。攝津修理大夫
いにしへを思ひいらこの月みれはかいの雫そ袖に落そふ
十六日。舟よりあがりて。潟濱とて浪のあらあらしき所を越はベるに。名所などおほくありと聞しかどもとふベき人もなし。しらすかといふ所のあさましきあまのとまやに一夜浪のをとを枕にてあかし侍に。歌などよむベきさまにもあらず。人々立さはぎ出行に。見つけのこううちすぎ。さ夜の中山をこえ侍るに。彼西行上人。年たけてなど詠じ侍もあはれに思ひ出られて。
月ひとり都の友そわれにかせ雲の衣をさ夜の中山
それよりくだり侍に。心のうちに歌などよみはべれども。かたるベき友もあらでよみすて