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Page:Gunshoruiju18.djvu/637

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群書類從卷第三百三十六


紀行部十

善光寺記行

堯惠法印

寬正六年七月上旬のはじめつかた。とし比誓願し侍し善光寺へおもひたちぬ。金劔宮より羇旅におもむきいで。里中の草庵に休らひ。旅の事などものして。又四日の曉に立て。明れば利波山をこえ侍とて。

 明にけりほのめくあまのとなみ山わかるゝ雪や秋の初風

おなじ日。二上川を過ぬ。

 ひとつせに流れての名はいかなれや二上河の水のしら浪

やがてふせの海のあたりになり侍り。はるばると湖水をみわたせば。鳴鴉飛盡て夕陽西山にかくれり〈たりイ〉

 しつみこし夕日の影は跡もなくにほてりよはるふせの海哉

彼家持卿興遊をのべ侍し田子のうらはいづくならんと尋侍れどもさだかにこたふる人も侍らず〈なしイ〉

 花とやはかさしてもみむ田子浦やそこともしらぬ秋の波をは

その夜なこといふ所に着ぬ。楓橋のよるのとまりもやと思ひつらね侍て。

 曙や夢はとたえし波の上になこの繼橋のこるとそみる

明ればほどなく水橋といふわたりにうつりぬ〈きイ〉

 徒に人たのめなる水はしや舟より外に行かたもなし

かくて立山の千巖に雪いと白くみえたり。

 あきのきる衣や寒き雲のぬき雪の立山やま風そふく