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Page:Gunshoruiju18.djvu/623

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おなじく奉りし御和。

 秋の雨もはるゝ計のことのはをふしのねよりも高く社みれ

おなじ所にて。

 天雲のよそに隔てゝふしのねはさやにもみえすさやの中山

十八日。藤枝の御とまり〈みつけの府より十一里。〉を立て。宇津の山こえ侍れば。雨の名殘いとつゆけかりしに。

 うつの山しくれむ露もほしやらて袂にかゝるつたのした道

ゆきて。けふぞ駭河府〈藤枝より五里。〉にも至り侍りぬる。千里始足下高山起微塵ためし思ひしられ侍り。この國の守護今川上總介。〈範政。〉御旅のおまし。かざり。ゐたち。けいめいし侍るうちにも。雪のつもれらむすがたを上覽にそなへ侍らばやとねんじわたりけるに。昨日の雨彼山の雪なりけり。今日しも白妙につもれるけしき。富士權現もきみの御光をまちおはしましけるとみえて。あやしくたうとくぞおぼえ侍る。山また山をかさねて。たなびきわたれる雲より上にかゞやきみえたる遠望たぐひなくこそ。

 白雲のかさなる山も麓にてまかはぬふしの空にさやけき

 わか君の高き惠みにたとへてそ猶あふきみるふしのしは山

これにてあまたあそばされ侍し御詠のうち。

 見すは爭て思ひ知へき言のはもおよはぬふしと豫て聞しを

この御和。

 言の葉を仰かさねて富士のねの雪もや君か千代をつむらし

夜もすがら。月にかの山を御らむじあかして。

 月雪の一かたならぬなかめゆへふしにみしかき秋のよは哉

おぼろげに御和など奉るベき御詠にし侍らねど。また仰ごとのいともかしこくて。

 富士のねや月と雪とのめうつしイもあかす珍し君かことのは

翌朝の御詠。

 朝明のふしの根おろし身にしむも忘れはてつゝなかめける哉

 あさ日影さすより富士のたかねなる雪も一しほ色增るかな

又御和。