Page:Gunshoruiju18.djvu/531

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にも。歌あまたいり給へる人なれば。御名もかくれなくこそ。いまは安嘉門院邦子に御かたとてさぶらひ給。《後高倉院姬宮後堀河院准母》あづまぢおもひ立しあすとて。まかり申のよし北白川安嘉門院御在所どのへまいりしかど。見えさせ給はざりしかば。こよひばかりのいでたちものさはがしくて。かくとだにきこえあえず。いそぎいでしにも。心にかゝり給イて。をとづれきこゆ。草の枕ながら年さへも暮ぬる。心ぼそさ雪のひまなさなどかきあつめて。

 消かヘりなかむる空もかきくれて程は雲ゐそ雪に成行

などきこえたりしを立かへり。その御返したよりあらばと心にかけまいらせつるを。けふはしはすの廿二日。文まちえて。めづらしくうれしさ。まづなに事もこまかに申たく候に。こよひは御かたたがへのぎやうかうの御うへとて。まぎるゝほどにて。おもふばかりもいかゞとほいなうこそ。御たびあすとて御まいり有ける日しも。みねどののもみぢ見にとて。わかき人々さそひにしほどに。後にこそかゝる事どもきこえ候しか。などやかくとも御尋候はざりし。

 一かたに袖やぬれまし旅衣たつ日をきかぬ恨なりせは

さてもそれより雪になり行と。をしはかりの御返事は。

 かきくらし雪ふる空のなかめにも程は雲ゐの哀をそしる

とあれば。このたびは又たつ日をしらぬとある御返しばかりをぞきこゆる。

 心からなにうらむらん旅衣たつ日をたにもしらすかほにて

曉たよりありときゝて。よもすがらおきゐて。都の文どもかく中に。ことにへだてなくあはれにたのみかはしたるあね君に。おさなき人々の事さまにかきやるほど。れいの浪かぜはげしくきこゆれば。たゞ今あるまゝのことをぞかきつけける。