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Page:Gunshoruiju18.djvu/525

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硯とりいでてかきつけてたてまつる歌。

 祈るそよわか思ふこと鳴海かたかたさしイひく汐も神のまに

 なるみかたわかの浦かさ隔てすはおなし心に神もうくらん

 みつ汐のさしてそきつる鳴海かた神やあはれとみるめ尋て

 雨風も神の心にまかすらんわか行さきのさはりあらすな

なるみのかたをすぐるに。しほひのほどなれば。さはりなくひがたを行。折しも濱千鳥いとおほくさきだちて行も。しるべがほなる心地して。

 濱千鳥啼てそさそふ世中に跡とめむとは思はさりしを

すみだ川のわたりにこそありと聞しかど。みやこどりといふ鳥のはしとあしとあかきは。此うらにもありけり。

 こととはむ觜と足とはあかさりし我こし夫かたの都鳥かも

二むら山をこえて行に。山も野もいととをくて。日もくれはてぬ。

 はると二村山を行過て猶すゑたとる野への夕やみ

八橋にとゞまらんといふ。くらさにはしもみえずなりぬ。

 さゝかにのくもてあやうき八橋を夕くれかけて渡りぬる哉かねぬる集

廿一日。八はしをいでて行に。いとよくはれたり。山もととをきはら野を分行。ひるつかたになりて。もみぢいとおほき山にむかひてゆく。風につれなき所々。くちばにそめかへてけり。ときは木どもゝ立まじりて。あをぢのにしきを見る心ちす。人にとへば宮ぢ山といふ。

 時雨けり染る千入のはては又紅葉の錦色かはるまて

此山までは昔みしこゝちするに。ころさへかはらねば。

 待けりな昔もこえし宮地山おなし時雨のめくりあふよを

山のすそ野にたけのある所に。かややの一みゆる。いかにしてなにのたよりに。かくてすむらんとみゆ。

 ぬしや誰山の裾野に宿しめてあたりさひしき竹の一村

日は入はてゝなを物のあやめも分ぬほどにわ