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Page:Gunshoruiju18.djvu/498

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らの土と成にけりと見ゆるにも。顯基中納言の口ずさみ給へりけん。年々に春の草のみ生たりといへる詩思ひいでられて。是も又ふるきつかとなりなば名だにも殘らじとあはれ也。羊太傳が跡にはあらねども。心ある旅人はこゝにもなみだをやおとすらむ。かの梶原は將軍二代の恩に憍り。武勇三畧の名を得たり。かたはらに人なくぞみえける。いかなることにかありけん。かたへの憤ふかくして。たちまちに身をほろぼすべきになりにければ。ひとまとものびんとやおもひけむ。都のかたへはせのぼりけるほどに。駿河國きかはといふ所にてうたれにけりときゝしが。さはこゝにて有けるよと哀に思ひあはせらる。讚岐の法皇崇德配所へおもむかせ給ひて。かの志戶と云處にてかくれさせ御座しける御跡を西行修行のついでにみまいらせて。よしや君昔の玉の床とてもかゝらむのちはなにゝかはせんとよめりけるなどうけ給はるに。ましてしもざまのものの事は申にをよばねども。さしあたりてみるにはいと哀におぼゆ。

 あはれにも空にうかれし玉梓の道のへにしも名をとゝめけり

淸見が關も過うくてしばしやすらへば。沖の石村々鹽干にあらはれて波に咽び。磯の鹽屋ところ風にさそはれて煙たなびけり。東路のおもひ出ともなりぬべきわたり也。むかし朱雀六十一代天皇の御時。將門と云もの東にて謀反おこしたりけり。是をたひらげんために民部卿忠文をつかはしける。此關にいたりてとどまりけるが。淸原滋藤といふ者。民部卿にともなひて軍監と云つかさにて行けるが。漁舟の火のかげは寒くして浪を燒。驛路の鈴の聲はよる山をすぐと云唐の歌を詠じければ。民部卿泪をながしけると聞にもあはれなり。