Page:Gunshoruiju18.djvu/494

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り。漁舟波にうかぶ。北には湖水有。人家岸につらなれり。其間に洲崎遠くさし出て。松きびしく生つゞき。嵐しきりにむせぶ。松のひゞき波のをといづれときゝわきがたし。行人心をいたましめ。とまるたぐひ夢をさまさずといふ事なし。みづうみにわたせる橋を濱名となづく。ふるき名所也。朝たつ雲の名殘いづくよりも心ぼそし。

 行とまる旅ねはいつもかはらねとわきて濱名の橋そ過うき

さても此宿に一夜とまりたりしやどあり。軒ふりたるかやイのところまばらなるひまより。月のかげ曇なくさし入たる折しも。君どもあまたみえし中に。すこしおとなびたるけはひにて。夜もすがら床の下に晴天をみると忍びやかにうち詠じたりしこそ。心にくくおぼえしか。

 言のはの深き情は軒端もる月のかつらの色にみえにき

なごりおほくおぼえながら。此宿をもうち出て行過るほどに。まひざはの原と云所に來にけり。北南は眇々とはるかにして。西は海の渚近し。錦花繡草のたぐひはいともみえず。白き眞砂のみありて雪の積れるに似たり。其間に松たえ生渡りて。鹽かぜ梢に音信。又あやしの草の庵所々みゆる。漁人釣客などの栖にやあるらん。すゑ遠き野原なればつくとながめゆくほどに。うちつれたる旅人のかたるをきけば。いつのころよりとはしらず此原に木像の觀音おはします。御堂など朽あれにけるにや。かりそめなる艸の庵のうちに雨露もたまらず年月を送るほどに。一とせ望むことありて鎌倉へくだる筑紫人有けり。此觀昔の御前にまいりたりけるが。もしこの本意をとげて古鄕へむかはゞ御堂をつくるべきよし心のうちに申置て侍りけり。鎌倉にて望むこ