Page:Gunshoruiju18.djvu/442

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居てしらぬ翁に耻。鑷子を取て白絲をあはれむ。是によりて佛のうへにはよはひをおどろかす老をつげ。鶴鬢のほとりに早落をいとふ花。露におどろき霜をいとふこゝろざしたちまちに催して。僧を學び佛に歸する念漸におこる。名利は身にすてつ。稠林に花ちりなば覺樹の菓は熟するを期すべし。薛蘿は肩にすがり法衣の色そみなば衣のうらの玉は悟る事を得つべし。只暮の露の身は山かげの草を置所とすれども朝霞は望み絕て天を仰にむなし。世をいとふ道は貧道より出たれども。佛を念する思は遺怠とをこたる。四聖の無爲を契りしも。一聖なを頭陀の道にとゞまりき。ひとへにをのれが有爲をいとひむさぼり。をのれい よいよ座禪の窓にいそがし。然而曹腊が酒も人をえはしてよしなし。子罕が賄は心に賄て身の樂とせり。鵝眼なけれど天命の路に杖つきて步をたすく。麞牙はかけたれども地恩の水に口すゝぎて渴をうるほす。空腹に一盃のかゆをすゝれば餘味あり。薄紙百綴の衿寒に服すれば肌をあたゝむるにたれり。檜笠をかぶり裝とす。出家の身なり。わらぐつをふんで駕とす。遁世の道なり。抑相摸國鎌倉の郡は。下界の鹿澁苑天朝の築渦州なり。武將の林をなす。萬榮の花萬にひらけ。勇士道にさかへたり。百步の柳百たびあたり。弓は曉月に似たり。一張そばだちて胸をたをし。剱は秋の霜のごとし。三尺たれて腰すゞし。勝鬪の一陳には爪を楯にしてあだを雌伏し。猛豪手にしたがへて直に雄搆す。干戈威をいつくしくして梟鳥あへてかけらず。誅戮にきびしくして。虎おそれをまし。四海の潮の音は東日にてらされて浪をすませり。貴賤臣妾の往還するおほくむまやのみち隣をしめ。朝儀國務の理亂は萬緖