ことことのけはひにはにぬ。法住寺の座主は。馬場のおとゝ。へんちしの僧都は。ふどのなとに。うちつれたる淨衣姿まて。ゆへ〳〵しきからはしともを渡りつゝ。木のまをわけてかへりいるほとも。はるかにみやらるゝ心地してあはれ也。さいさあさりも。大いとくをうやまひてこしをかゝめたり。人々參りつれは。夜もあけぬ。わた殿の戶くちのつほねにみいたせは。ほのうちきりたるあしたの露もまたおちぬに。殿ありかせ給てみすいしんめして。やり水はらはせ給ふ。はしのみなみなるをみなへしの。いみしうさかりなるを。一枝おらせ給ひて。木丁のかみよりさしのそかせ給へり。御さまのいとはつかしけなるに。我朝かほの思ひしらるれは。これをそくてはわろからんとの給はするに。ことつけてすゝりのもとによりぬ。
女郞花盛の色をみるからに露のわきけるみこそしらるれ
あなとゝほゝゑみて。すゝりめしいつ。
白露はわきてもをかしをみなへし心からにや色のそむらん
しめやかなる夕暮に。宰相のきみとふたり。ものかたりしてゐたるに。とのゝ三位の君。すたれのつま引あけてゐ給ふ。としのほとよりは。いとおとなしく。心にくきさまして。人は猶心はへこそかたきものなめれなと世の物かたりしめ〳〵としておはするけはひ。おさなしと人のあなつり聞ゆるこそあしけれと。はつかしけにみゆ。うちとけぬほとにて。おほかるのへにと。うちすんしてたち給にしさまこそ。物かたりにほめたるおとこの心ちし侍りしか。かはかりのことの。うちおもひ出らるゝもあり。そのおりはおかしきことの。すきぬれはわするゝも有はいかなるそ。はりまのかみ。このまけわさしける曰。あからさまにまかてゝ後にそ。ごばんのさまなとみ給へしかは。けそくなと