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いほぬし
增基法師
いつばかりのことにかありけん。世をのがれて。こゝろのまゝにあらむとおもひて。世のなかにきゝときく所々。おかしきをたづねて心をやり。かつはたうときところ〴〵おがみたてまつり。我身のつみをもほろぼさむと
こゝにしもわきて出ける石淸水神の心をくみて知はや
それより二日といふ日の夕ぐれにすみよしにまうでつきぬ。みればはるかなる海にていとおもしろし。南には江ながれて。水鳥の樣々なるあそぶ。あまの家にやあらん。あし垣のやのいとちいさきともあり。秋の名殘夕ぐれのそらのけしきもたゞならずいとあはれなり。みやしろには庭も見えず。色々さまざまなるもみぢちりて冬ごもりたり。經などよみ聲して人しれずかくおもふ。
ときかけつ衣の玉は住のえの神さひにける松の梢に