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Page:Gunshoruiju18.djvu/343

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まりをおはんとてこぎいでにけり[にイナシ]。これかれたがひにくにのさかひのうちはとて。見おくりにくる人。あまたがなかに。ふぢはらのときざね。たちばなのすゑひら。はせべのゆきまさらなん。みたちよりいでたうびし日より。こゝかしこにおひくる。この人々ぞ心ざしある人なりける。この人びとのふかき心ざしは。この海にはをとらざるべし。これよりいまはこぎはなれてゆく。これをみをくらんとてぞこの人どもはおひきける。かくてこぎゆくまにまに。海のほとりにとまれる人もとをくなりぬ。ふねの人も見えずなりぬ。きしにもいふことあるべし。船にもおもふことあれどかひなし。かゝれど。この歌をひとりごとにしてやみぬ。

 思ひやる心は海を渡れとも文しなけれはしらすやあるらん

かくて。宇多の松ばらをゆきすぐ。その松のかずいくそばくいくちとせへたりとしらず。もとごとに波うちよせ。枝ごとにつるぞとびかよふ。おもしろしと見るにたへずして。ふなびとのよめるうた。

 み渡せは松のうれことに住鶴は千世のとちとそ思へらなる

とや。このうたはところを見るにえまさらす。かくあるをみつゝこぎゆくまに。山も海もみなくれ。夜ふけてにしひんがしも見えずして。てけ天氣のこと。かぢとりの心にまかせつ。をの子もならはねばいともこゝろぼそし。ましてをんなはふなぞこにかしらをつきあてゝねをのみぞなく。かくおもへば。ふなこかぢとりはふなうたうたひて。なにともおもへらず。そのうたふうたは。はるのゝにてぞねをばなく。わかすゝきにて。手をきるつんだるなを。おやゝまほるらん。しうとめやくふらん。かへらや。よんべのうなゐもがな。にこはん。そらごとをして。おぎのりわざをして。ぜ