このページは校正済みです
しくれかもなにゝぬれたる袂そと定めかねてそ我も詠むる
とて。まことや。
紅葉はゝ夜はの時雨にあらしかし昨日山へをみたらましかは
と有けるを御覽して。
そよやそよなとて山へをみさり劔けさは悔れと何のかひなし
とて。はしに。
あらしとは思ふ物から紅葉はのちりや殘れるいさ尋ね見ん
とのたまはせたれは。
移はぬ常盤の山も紅葉せはいさかしゆきてのと〳〵とみむ
をこならんかたにそ侍らむとて。ひとひおはしましたりしに。さはることありて。聞えさせぬそと申しをおほしいてゝ。
高瀨舟はや漕出よさはることさし歸りにしあしまわけたり
と聞えさせたるを。おほしわすれたるにや。
山へには車にのりて行へきをたかせの舟はいかゝよるへき
とあれは。
紅葉はのみにくる迄もちらさらは高瀨の舟のいかゝ焦れん
とて。その日も暮ぬ。おはしましたるに。こなたのふたかりたれは。れいのいとしのひてゐておはします。此ころは四十五日の御方たかへさせ給とて。御いとこの三位
ねぬるよのね覺の夢にならひてそ伏見の里をけさは起つる
御返し。