Page:Gunshoruiju17.djvu/250

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にいとまさなし。いますかりつる志をおもひもしらで。まかりなむずることの口惜う侍りけり。ながき契のなかりければ。程なくまかりぬべきなめりとおもひかなしく侍る也。親達のかへりみを聊だにつかまつらで。まからむ道もやすくもあるまじきに。ひごろもいでゐて今年計の暇を申つれど。更にゆるされぬによりてなむかく思ひなげき侍る。御心をのみまどはしてさりなん事の。かなしく堪がたく侍る也。かの都の人は。いとけうらにおいもせずなむ思ふこともなく侍也。さる所へまからむずるもいみじくも侍らず。老おとろへたまへる樣を見たてまつらざらんこそ戀しからめといひて[なくイ]。翁胸[イ无]いたきことなし給ひそ。うるはしき姿したる使にもさはイらじとねたみをり。かゝる程に宵打過て。ねの時ばかりに。家のあたりひるのあかさにも過て光たり。もち月のあかさ十合たる計にて有人の毛のあなさへ見ゆるほどなり。大空より人雲に乘ており來て。つちより五尺計あがりたるほどにたちつらねたり。是をみて內外なる人の心ども。物におそはるゝやうにして。あひたゝかはむ心もなかりけり。からうじて。思ひおこして。弓矢を取たてむとすれども。手に力もなく成てなへかゞ[まイ]りたる中に。心ざしさかしきものねんじていむとすれども。ほかざまへいきければ。あれもたゝかはで。こゝちたゞしれにしれて守あへり。たてる人共はさうぞくのきよらなること物にもにず。とぶ車ひとつぐしたり。らがい羅蓋さしたり。その中にわうとおぼしき人。いへに宮つこまろまふでこといふに。たけく思ひつる宮つこまろも。物におそひ[ゑひイ]たる心ちしてうつぶしにふせり。いはく。汝おさなき人。いさゝかなるくどくを翁つくりけるによりて。汝が