群書類從卷第三百九
竹とりの翁物語
今はむかし。竹とりの翁といふものありけり。野にまじりて竹をとりつゝ萬の事につかひけり。名をばさぬきの宮つことなむいひける。其竹の中に本光る竹なむ一すぢ有けり。あやしがりて寄て見るに。つゝの中ひかりたり。それを見れば三寸ばかりなる人いとうつくしうてゐたり。翁云やう。我朝每夕每にみる竹の中におはするにてしりぬ。子になりたまふべき人なめりとて。手に打入て家にもちて來ぬ。めの女にあづけてやしなはす。うつくしき事限なし。いとおさなければこに入てやしなふ。竹とりの・竹をとるに。此子を見つけて後に竹とるに。ふしを隔て。よごとにこがねある竹を見つくる事かさなりぬ。かくておきなやうやうゆかたになり行。この兒やしなふほどにすくすくとおほきになり增る。三月計の內によきほどなる人になりぬれば。かみあげなどさうじて。かみあげさせもきす。ちやうのうちよりもいださず。いつきかしづきやしなふ。此兒のかたちのけさうなる事よになく。屋のうちは闇き所なく光滿たり。翁心あしく候へし時も。此子をみればくるしき事もやみぬ。腹だたしくあることもなぐさみけり。翁竹をとる事久