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たりける車に。女のかほの。したすだれよりほのかに見ゆれば。中將なる人のよみてやる。
見すも非すみもせぬ人の戀し
かへし。をんな。
しるしらぬ何か綾なくわきて言む思ひのみ社しるへ
むかし男。弘徽殿のはざまをわたりたりければ。あるやむごとなき人の御つぼねより。わすれ草をしのぶぐさとやいふとて。さしいださせ給へりければ。たまはりて。
忘艸おふるのへとは見るらめとこは忍ふなり後もたのまん
むかしおとこ。みこたちのせうえうし給ふ所にまうでて。たつた河のほとりにて。
千早振神代もしらぬたつた川からくれなゐに水くゝるとは
昔なまあてなる男のもとにごたち有けり。それを內記なる藤原のとしゆきといふ人よばひけり。此女かほかたちはよけれど。いまだわかゝりければにや。ふみもおさおさしからず。ことばもいひしらず。いはむやうたはよまざりければ。このあるじなりける人。ふみのあむをかきて女にかきうつさす。さてかへりごとはしけり。ことはいかゞ有けむ。めでまどひて男のよめりける。
つれ〳〵のなかめにまさる淚袖
返し。れいのおとこ。女にかはりて。
淺みこそ袖はひつらめ淚河身さへなかるときかはたのまん
といへりければ。男いたうめでて。ふみばこにいれてもてありくとぞいふなる。おなじ男。あひてのちふみをこせたり。まうでこんとするに。雨のふるになん見わづらひぬ。身さいはひあらば。この雨ふらじといへりければ。れいの男。女にかはりて。
數々に思ひおもはぬとひかたみ身をしる雨は降そまされる
とてやりたりければ。みのかさもとりあへで。しとゞにぬれてまどひきけり。