Page:Gunshoruiju17.djvu/137

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えぬを。何によりてならむ。いといたううちなきて。いづ方にもとめゆかんと。かどに出てとみかうみ見けれど。い[づイ]こをはかともおぼえざりければ。かへり入て。

 思ふかひなき世成けり年月をあたに契て我かすまひし

 人はいさなかめやすらん玉かつら俤にのみいてゝみえつゝ

といひてながめをり。この女いとひさしくありて。ねんじかねてにやあらん。かくいひをこしたり。

 今はとて忘るゝ草のたねをたに人の心にまかせすもかな

返し。おとこ。

 忘草かるとたにきく物ならは思ひけりとはしりもしなまし

またありしより けにいひかはして。おとこ。

 忘るらんと思ふ心のうたかひに有しよりけに物そかなしき

かへし。

 中空に立ゐる雲のあともなく身のはかなくも成ぬへきかな

とはいひけれど。をのが世々になりにければ。うとく成にけり。

むかしはかなくてたえにける中。をか[なをやイ]わすれざりけん女のもとより。

 うきなから人をはえしも忘ねはかつ恨つゝ猶そ戀しき

といひければ。さればよと思ひて。

 あひはみて心ひとつをかはしまの水の流て絕しとそ思ふ

とはいひけれど。その夜いにけり。いにしへゆくさきの事どもぞおもふ。

 秋のよのちよを一夜に準へてやちよしねはや飽由のあらん

返し。

 秋夜の千夜を一よになせりともことは殘て鳥や鳴なん

いにしへよりも哀にてなむかよひける。

むかし。いなかわたらひしける人の子ども。井のもとにいでゝあそびけるを。おとなになりにければ。おとこも女もはぢかはしてありければ。男はこの女をこそえめ。をんなはこの男をと心ひつゝ。おやのあはすることもきかで