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Page:Gunshoruiju17.djvu/135

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なんとするに。女いとかなしと思ひて。むまのはなむけをだにせんとて。おきのゐみやこつしまといふ所にて。さけのませんとして よめる。

 おきのゐて身を燒よりもわひしきは都つしまの別れなり鳬

とよめりけるに。めでてとまりにけり。

むかし。きのありつねといふ人有けり。みよのみかどにつかへて。ときにあひたりけれど。のちには世かはり時うつりにければ。よのつね時うしなへる人になりにけり。人がらは 心うつくしう。あてなることをこのみて。こと人にもにず。よのわたらひ心もなくまづしくて。猶むかしよかりし時の心ながら。ありわたりけるに。よのつねのこともしらず。としごろありなれたる女も。やうとこはなれて。つゐにあまになりて。あねのさきだちてあまになりにけるがもとへゆく。おとこ。まことにむつまじき事こそなかりけれ。いまはとてゆくを。いと哀とはおもひけれど。まづしければ。するわざもなかりけり。思ひわびて。ねんごろにかたらひけるともだちに。かう今はとてまかるを。何事もいさゝかの事もせで。つかはすこととかきて。おくに。

 手を折てへにける年を數ふれは十と言つゝよつはへにけり

このともだちこれを見て。いとあはれとおもひて。女のさうぞくを一具をくるとて。

 年たにもとをとてよつをへにけるを幾度君を賴みつきらん

かくいひたりければ。よろこびにそゑて。

 これやこのあまの羽衣むへしこそ君かみけしに奉りけれ

よろこびにたへかねて又。

 秋やくる露やまかふと思ふまてあるは淚のふるにそ有ける

昔。年比音信ざりける人の。櫻見に來たりければ。あるじ。

 あたなりとなに社たてれ櫻花としにまれなる人もまちけり