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は次のとおりである。

  (退所または退院)

七条 行政主席は、ハンセン氏病を伝染させるおそれがなくなった患者 (以下「軽快者」という。) に対し、政府立療養所または指定病院から退院することを命ずることができる。

2 政府立療養所の長 (以下「所長」という。) または指定病院の長 (以下「院長」という。) は、退所または退院に際し、前項の軽快者に対して規則で定める証明書を交付しなければならない。

3 第一項の軽快者は、規則の定めるところにより、所長または院長の定期診查を受けなければならない。

  (在宅予防措置)

八条 行政主席は、ハンセン氏病を伝染させるおそれがない患者に対し、予防上必要があると認めるときは、在宅のまま必要な措置を講ずることができる。

2 前項の措置について必要な事項は、規則で定める。

 昭和四七年五月一五日の沖縄の本土復帰により、沖縄にも、新法が適用されることになったが、沖縄振興開発特別措置法により、退所及び在宅治療制度が残された。

 第三 本土復帰前の沖縄のハンセン病政策は、本土のハンセン病政策とは異なる経過をたどってきたのであり、法制自体に共通するところが大きいとはいえ、隔離規定の運用状況や退所許可の実情等については、証拠上必ずしも明らかではなく、本土復帰前の沖縄における被害を、同時期の本土のそれと同視することができるというだけの立証が尽くされているとはいえない。

 したがって、前記第一の原告三名については、本土復帰前の被害については個別損害として本件訴訟の賠償の対象とはせず、本土復帰後の被害のみを賠償の対象とすることとした。

 そして、原告二五番、同二六番及び同四二番の損害額については、原告一一番に準じ、慰謝料を八〇〇万円とし、弁護士費用を八〇万円とする (別紙八)。


第七節 除斥期間について (争点四)

 第一 被告は、原告らが本件訴えを提起した時点から二〇年より以前の行為を理由とした国家賠償請求権が仮に発生していたとしても、除斥期間を定めた民法七二四条後段により消滅していると主張している。

 第二 民法七二四条後段の規定は、不法行為による損害賠償請求権の除斥期間を定めたものと解するのが相当であるところ (最高裁平成元年一二月二一日第一小法廷判決・民集四三巻一二号二二〇九頁)、右除斥期間の起算点について、同条後段は「不法行為ノ時」と定めている。

 そこで、右除斥期間の起算点について検討するに、本件の違法行為は、厚生大臣が昭和三五年以降平成八年の新法廃止まで隔離の必要性が失われたことに伴う隔離政策の抜本的な変換を怠ったこと及び国会議員が昭和四〇年以降平成八年の新法廃止まで新法の隔離規定を改廃しなかったことという継続的な不作為であり、違法行為が終了したのは平成八年の新法廃止時である上、これによる被害は、療養所への隔離や、新法及びこれに依拠する隔離政策により作出・助長・維持されたハンセン病に対する社会内の差別・偏見の存在によって、社会の中で平穏に生活する権利を侵害されたというものであり、新法廃止まで継続的・累積的に発生してきたものであって、違法行為終了時において、人生被害を全体として一体的に評価しなければ、損害額の適正な算定ができない。

 このような本件の違法行為と損害の特質からすれば、本件において、除斥期間の起算点となる「不法行為ノ時」は、新法廃止時と解するのが相当である。

 なお、退所者については、退所時に隔離という意味での違法行為が終了しているとも見られないではない。しかしながら、本件で賠償の対象となる共通損害は、隔離による被害の部分とそれ以外の部分に観念的には区別できるが、両者は、共通する違法行為から発生し、密接に結び付くものであって、分断して評価すべきものではなく、両者を包括して、社会の中で平穏に生活する権利の侵害ととらえるべきものであることからすれば、本件において、退所の事実は、除斥期間の起算点の判断に影響を与えないというべきである。

 したがって、本件において、除斥期間の規定の適用はない。

 第三 被告は、土地の不法占有による損害賠償に関する事案である大審院昭和一五年一二月一四日民事聯合部判決 (民集一九巻二三二五頁) を挙げるが、右判決は、民法七二四条後段とは権利消滅の法的性質や起算点の定め方が全く異なる同条前段の三年の短期消滅時効に関するものである上、損害が、加害行為の継続により定量的に発生するという点においても、本件とは事案を異にするものというべきである。

 また、被告は、嘉手納基地や横田基地の騒音被害の短期消滅時効に関する下級審判決をるる指摘するが、これについても、右大審院判決について述べたところがそのまま妥当し、本件とは事案を異にするものというべきである。

 さらに、被告は、加藤老国家賠償訴訟の広島高裁昭和六一年一〇月一六日判決が、刑の執行を違法行為とする国家賠償請求について、除斥期間が日々別個に進行する旨判示しており、本件もこれと同様に考えるべきであると主張している。しかしながら、右判決は、戦前の有罪判決 (後に再審により無罪となった。) による国家賠償法施行前後にまたがる刑の執行による損害の賠償を求めた特殊な事案に関するものであり、本件とは事案に異にする。なお、付言するに、右判決は、結局、国家賠償法上の違法行為の存在を認めていないのであり、除斥期間に関する判断は、あくまでも傍論的なものというべきである。

 第四 したがって、被告の主張は採用できない。


第八節 結論

 よって、原告らの請求は、別紙認容額一覧表の各原告に対応する「認容額」欄記載の各金員及び右各金員に対する同一覧表「遅延損害金起算日」欄記載の各日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法六四条本文、六一条を、仮執行宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用し (なお、仮執行宣言の効力発生時期については、本判決が被告に送達された日から一四日を経過した時とする。)、仮執行免脱宣言の申立ては相当でないから付さないこととして、主文のとおり判決する。

  熊本地方裁判所民事第三部

           裁判官 渡 部 市 郎

 裁判長裁判官杉山正士、裁判官伊藤正晴は、いずれも転補のため、署名押印することができない。

           裁判官 渡 部 市 郎

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 別紙 認容額一覧表《略》ママ

 別紙一 入所期間一覧表 (新法廃止まで)《略》ママ

 別紙二1 接触者児童のらい発病率《略》ママ

 別紙二2 夫婦感染の発病率《略》ママ

 別紙三 表1「優生保護法」に基づくハンセン病を理由にした断種・人工妊娠中絶数《略》ママ

 別紙四 増床の実施状況《略》ママ

 別紙五 《略》ママ

 別紙六 軽快退所者数《略》ママ

 別紙七 療養所における外来治療患者数及び新規入所者数《略》ママ

 別紙八《略》ママ

別紙 原告ら訴訟代理人目録
 徳田 靖之   八尋 光秀   加藤  修
 浦田 秀徳   板井  優   伊黒 忠昭
 池永  満   稲尾 吉茂  井上 滋子
 岩田  務   久保井 摂   古賀 克重
 小林 洋二   迫田  学   名和田茂生
 縄田 浩孝  服部 弘昭   原田恵美子
 平田 広志  堀内 恭彦   武藤 糾明
 矢野 正剛   山崎 吉男   浜田  愃
 東島 浩幸   本多 俊之   小林 正博
 安東 正美   工藤  隆   中山 知康
 渡辺 耕太   内川  寛   衛藤 二男
 国宗 直子   立山 秀彦   馬場  啓
 東  俊裕   藤田 光代   三角  恒
 吉井 秀広   井之脇寿一   川村 重春
 東條 雅人   向  和典   伊志嶺善三
 新里 恵二   西  太郎   安部 千春
 安部 尚志   荒牧 啓一   諫山  博
 一瀬 悦朗   井出 豊継   稲村 晴夫
 上田 国廣   宇治野みさゑ   内田 敬子
 内田 茂雄   大神 周一   大谷 辰雄
 椛島 敏雅   木上 勝征   木梨 吉茂
 黒田 慶三   小宮  学   幸田 雅弘
 佐藤  至   島内 正人   高田 典子
 蓼沼 一郎   田中 利美   田邊 匡彦
 辻本 育子   永尾 廣久   野林 信行
 橋本 千尋   林田 賢一   樋口 明男
 深堀 寿美   福島 康夫   藤尾 順司
 藤原 政治   本田 祐司   前野 宗俊
 馬奈木昭雄   三溝 直喜   美奈川成章
 牟田 哲朗   山本 晴太   用澤 義則
 吉野 高幸   吉村 敏幸   渡辺富美子
 和智 凪子   河西龍太郎   桑原 貴洋
 中村 健一   宮原 貞喜   塩塚 節夫
 高尾  徹   永田 雅英   原  章夫
 横山 茂樹   吉田 良尚   梅木  哲
 神本 博志   佐川 京子   清水 立茂
 西田  収   西山  巖   古田 邦夫
 吉田 孝美   奥村惠一郎   坂本 恭一
 塩田 直司   西 清次郎   村山 光信
 吉田 賢一   木山 義郎  笹川 竜伴
 田平 藤一   野村 浩志   久留 達夫
 三窪 洋三   後藤 好成   年森 俊宏
 成見 幸子   西田 隆二   松田 公利
 松田 幸子   加藤  裕   金城  睦
 仲山 忠克   永吉 盛元   高木 絹子
 松野 信夫   川副 正敏   鈴木 宗巖
 藤田 雄士   

(注) 弁護士高木絹子は、原告 (30) 以外の原告ら訴訟代理人である。 弁護士川副正敏は、原告 (66、67) 以外の原告ら訴訟代理人である。 弁護士鈴木宗巌及び同藤田雄士は、原告 (46から127) の原告ら訴訟代理人である。

別紙 原告ら訴訟復代理人目録
 赤沼 康弘   鮎京眞知子   安東 宏三
 五十嵐裕美  井上 雅雄   上田 序子
 内海 陽子   海川 直毅   梅川 直毅
 大熊 裕司   大槻 倫子   神谷 誠人
 川西 渥子   黒木 聖士   小梅 範亮
 越尾 邦仁   小橋 るり   近藤  剛
 坂本  団   迫田登紀子   清水  剛
 清水 善郎   鈴木 淳士   鈴木 利廣
 鈴木 宗巖   高橋  享   高見澤昭治
 田中 利武   佃  俊彦   寺内 大介
 豊田  誠   内藤 雅義   中西 一裕
 中原  修   野間  啓   樋口 明巳
 平井 昭夫   福地 直樹   増田  尚
 松尾 重信   水口真寿美   安原 幸彦
 山本 晋平   吉田 哲也   吉田  肇


(注) 鈴木宗巖は、原告1~45に関しての復代理人である。

別紙 被告指定代理人目録

野本 昌城

〈ほか35名〉ママ