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Page:Bushido.pdf/275

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らんとして、又た久しきを持すべからず。一大思索家がテレサ(註)及びアンチゴネ(註)の二烈婦を月旦するに當りて用ひたる、『彼等が熱烈なる行爲を產みたる境遇は、今や永遠に去れり』との語は、之を移して、又た當に我武士を評すべし。

 悲しいかな、武士道の德や。悲しいかな、武者の誇や。鉦鼓鏜々の聲を以て、此世に迎へられたりし道德は、今や詩人の『將軍も去り、王者も去りぬ』と歌へるが如く、衰亡回すべからざるの命數に在り。

 歷史若し吾人に垂敎する所あるものならん乎、武德を以て建てたる國家は、スパルタの如き都市にもあれ、羅馬の如き大帝國にもあれ、地上に『恒に保つべき城邑』を成す能はざるを知る。爭鬪の本能は自然にして、人皆之を有し、又た