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完璧に近きものなるべきを。されど菲才なる予が文章彫蟲の技に拙陋なるを憾む。

 此譯書は又た予が一家の悲事と關連するに至れり。譯文の大半は實に去年十二月十日三歲を以て逝きたる幼兒立夫の病中に成り、殊に『克己』の一章の如きは、彼が永眠に先だつ三日の夜深更、予は輾轉憂悶、眠らんとして眠る能はず、坐せんとして兒の痛苦呻吟を見るに忍びず、由つて屛後の床中に俯し、兒の奄々たる氣息を數へつゝ、筆を下し、文中記する所、即ち予が爲に讖を爲すものならんことを恐れつつ、辛うじて脫稿したるものなり。されば予は愛兒の訃を博士に報ずると共に、此事を陳じて、此譯書に留むるに立夫の名を以てして、其靈に供へ、且つ以て我一家の悲愁を慰す