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Page:Bushido.pdf/250

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に腐死せんことを欲する、又た其色妖冶、其香醲厚なる、此等の特質は大いに之を我櫻花と其趣を異にす。櫻の佳美なるは、毒を蓄へず、刄を潜めず、且つ自然の招呼に應じ、欣然として飄落し、又た其姿色太だ華麗ならず、其淸香は淡として、逈かに薔薇の人を饜かしむると同じからず。形容色彩の美は、花瓣の外觀を成すに止まりて、其存在に伴ふ常質なり。然るに其芬芳は生命の氣息の如くに輕浮す。故に凡百の宗敎に於て、乳香、沒藥は、主なる儀式を成せり。馨香は淸淨聖潔なるものを有す。旭日波を破り、絕東の島嶼初めて紅光を浴び、櫻花絢熳、曉風に開くの時、徐に此の美しき日の其氣息を吸盡せん乎、胸懷浩々、自から淸澄爽快なるものあり、即ち何者の情感か、能く之に儔ひするを得べけんや。