Page:Bushido.pdf/249

提供:Wikisource
このページは検証済みです

 然り櫻は、古來我國民の愛翫せる花にして、又た我國民性格の儀型なり。而して思へ、歌人の特に『朝日に匂ふ山櫻花』と曰へる所以のものを。

 大和魂は、馴雅婉孌たる花に非らずして、野性を帶び、自然なり。我國土の特產なり。其偶有性は、之を他鄕土の花と齊しうするものありと雖、其本質は依然として我風土に自發自生す。されど其國產たるが故にのみ、吾人の之を愛好するに非らず。其高雅優麗にして日本國民の美感を動かすの大なるは、高く群芳に絕す。吾人は歐洲人と共に薔薇を翫賞する能はず、其花や、我國華の單純なるに似ず。而も亦た薔薇の窈窕として其陰に刺針を藏する、風前に脆く散じて、泥汗に委せんことを厭惡し、畏懼し、頑として寧ろ枝頭