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Page:Bushido.pdf/143

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つかず。主運の末の悲しさを歎き悶ゆる折も折とて、器量賤しからぬ母親に連れられて、寺入賴む小兒あり。見るに﨟たき幼兒の、養君の御年恰好なり。幼君と幼臣、其面差の紛ふばかりなるは、母固より之を知り、子も亦た知れり。我家の奧に、人は知らず、幼兒の生命と、母が眞心との二つは、旣に祭壇に捧げられしなり。源藏は斯くとも思ひ寄らず、唯だ此子を以て其君を救はんとす。

 爰に犧牲スケープ、ゴートを獲たり。檢視の役人は來れり。贋首に欺かるべき乎。源藏は忍びの鍔元くつろげ、虛と云はゞ切付けんと堅唾を呑む。眼力光らす松王丸、淺ましの首引寄せ、ためつ、すがめつ、こりや是れ菅秀才の首に紛ひ無しと云ふ。―母や其子が最期の狀を知れりや。道までは歸つて見たれ