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ど、子を殺さしにおこして置いて、などて我家へ歸らるべき。舅は年久しくも丞相の高恩を蒙り、夫は餘義無くも恩主の敵に隨身す。主は殘忍なりとても、臣として背くべきにあらず。流人の家に好みあるを幸ひ、菅秀才の首實檢せよとの今日の役目。今ぞ我子能く祖父の主君に仕へて其殊恩に報ずべしと、申合せての此の悲しさ。我子の死顏なりと、今一度見たさに又た歸り來る寺小屋。松王は今日の役目―膓を斷つべき一期の役目―仕遂せて又た立戾る源藏が門より、聲高く『女房よろこべ、忰は御役に立つたぞよ』。

『嗚呼、何等の慘事ぞ、他の生命を救はんが爲に、親の自から其子を犧牲とする事や』と、人あり或は此言をなすものあらん。されど此小兒は自から甘んじて死に就くの犧性な