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げい也、

第十二 鷲と烏との事

或わし、餌食のために、羊の子をつかみ取てくらふこと有、烏これを見て、あなうらやまし、いづれも鳥の身として、何かは加樣にせざるべきと、我慢おこし、われもとて野牛の有をみて、つかみ懸ぬ、それ野牛の毛は、ちゞみてふかき物也、故にかへつてをのれがすねをまとひて、はためく處を、主人走寄て、からめ取ていましめて、命をたつべけれ共とて、羽を切てはなしける、ある人彼からすに向て、汝何物ぞととへば、昨日はわし、けふは烏也と云、其如く、わがみの程を不知して、人のいせいを羨者は、わしのまねするからすたるべし、

第十三 しゝ王と驢馬との事

あるろば病しける處に、しゝ王來て此脈を取こゝろむ、ろばこれを恐るゝこと限なし、しゝ王ねんごろのあまりに、其身をあそこ此處をなでまはして、いづくがいたきぞととへば、謹で云、しゝ王の御手のあたり候所は、今迄かゆき所もいたく候と、ふるいてぞ申ける、其如く、人のおもはくをも知ず、ねんごろだてこそうたてけれ、大切をつくすといふも、常になれたる人の事也、知ぬ人に餘り禮をするも、かへつて狼藉とぞ見えける、

第十四 野牛と狐との事

あるとき、野牛と狐と渴に望て、いげたの內に落入て、水をのみをはつてのち、あがらんとするに、よしなし、狐申けるは、ふたりながら此池の中にて死なんも、はかなきことなれば、はかりごとをめぐらして、いざやあがらんとぞ云ける、野牛尤と同心す、狐申けるは、先御邊せいをのべ給へ、其せなかにのぼりて上にあがり、御邊の手を取て上へ引奉らんと云、野牛實もとて、せいをのべける處に、狐其あたまをふまへてあがり、笑て云、扨もさても御邊はをろかなる人かな、其ひげ程ちゑを持給はゞ、我いかゞせん、何としてかは御邊を引上奉らんや、さらばとて歸ぬ、野牛むなしく井の本に日を送りて、終にはかなく成にけり、其如く、我も人も難儀に逢んことは、先我難儀をのがれて人の難を除べし、我地獄に落て後、他人樂を受ればとて、我合力に可成や、これを思へ、

第十五 ある人佛いのる事