一艘汀に有、又ふたりとものるべき舟にもあらず、羊一匹我と共にのりて渡る、殘りの羊多ければ、其隙いくばくのついへぞと云て、又ねぶる、其時國王げきりん有て、いそほをいさめてのたまふ、汝がすいめんろうぜき也、語はたせと綸言有ば、いそほおそれ〳〵申けるは、千五百匹のひつじを、小舟にて一疋づゝ渡せば、其時刻いくばくかあらん、其間眠り候と申ければ、國王大きにえいかん有て、汝が才覺はかり難し、御ざんなれとて暇をこふ、おかしくも又かんせいも深かりけり、
第五 學匠ふしんの事
さる程に、ねたなを帝王、國中の道俗學者を召よせ、汝等が心におゐて不審あらば、此いそほに尋よとのたまへば、ある人すゝみ出て申けるは、或がらんの中に柱一本有、其柱の中に十二の里有、其里のむなぎ三十有、彼一つの柱をぞうやく二疋上り下る事如何、いそほ答云、いとやすき事にて候、我等が國におさなき者迄も、是を知事に候、故いかんとなれば、大がらんとは此界の事なり、一本の柱とは一年のこと也、十二の里とは、十二ケ月のこと也、三十のむなぎとは、三十日のこと也、二疋のぞうやくとは、日夜のこと也と申ければ、重ていなと云事なし、或時帝を初奉り、月卿雲客袖をつらね、殿上に並居給ふ中におゐて、御門仰けるは、天地開しより以來、見もせず聞もせぬ物はいかんとのたまへば、いそほ申けるは、いか樣にも明日御返事申べけれとて、御前をまかり立、扨其日にのぞんで、いそほ參內申ければ、人々是をきかんとて、さしつどひ給へり、其時いそほ懷より、
第六 さぶらひ鵜鷹に好く事
さる程に、えじつとの國の侍共、鵜鷹逍遙をこのむことはなはだし、國王是をいさめ給へ共、勅命をもおそれず是に長ず、帝いそほに仰けるは、臣下殿上に罷出ん時、