節あるあき人此者をかひとり、ありしてす、えたりかしこしと、彼あきびとにうりわたさる、なほべちのひと二人買そへ、以上三人めしぐして、さんと云所に難なく行けり、其里におゐて、しやんといふ、やんごとなき知者の行逢、彼あき人に尋て云く、御邊のめしぐしけるもの共、何事をかはし侍るぞとのたまへば、あき人こたへて云く、一人はびわをひくげに候と申ければ、かのしやんと、すぐに二人の者にとひ給ふは、面々は何事をかし侍るぞと仰ければ、二人諸共に答云、あらゆる程の事をば、かたのごとく知り侍ると申、其後又いそほに、汝はいかなる者ぞととひ給へば、いそほ答云、われはこれ骨肉なりと申ければ、我汝に骨肉をばとはず、汝いづくにて生れけるぞやと仰ければ、いそほ答云、我はこれ母の胎內より生れ候と申、汝に母の胎內をばとはず、汝が生れたる所は、いづくの國ぞと仰ければ、伊曾保答云、われはこれ母の生みたる所にてそだたり候と申、其時しやんと、かれが返答は、たゞ魚の島をめぐるがごとし、さて汝は何事をか知り侍るととはせ給へば、いそほ答云、何事をも知侍らぬ者にて候と申、其時しやんと重ねて仰けるは、人としてものゝわざなき事あたはず、汝何の故にか、しわざなきやと仰ければ、伊曾保答云、われ何をかなすと申べき、其ゆへは、件の兩人あらゆる程の事をばしるといへり、これにもれて、我何をかしりうべきやと申、其時しやんと、いそほにとひたまはく、我汝をかいとるべし、汝におゐていかんとおほせければ、いそほ答云、たゞ其事はのぞみの心に有べし、いかでそれがしに尋給ふぞと申、しやんと重てのたまふは、我汝をかいとるべし、かの時にげざるべきやと仰ければ、いそほ答云、我此所をにげさらん時、御邊のいけんを請べからずと申、かやうに樣々興がるこたへ共をし侍りければ、心よげにおもひて、いさゝかの間にかい取、彼商人とゆき給ふに、ある關のまへにて、いそほが姿を見て、あやしの者やと咎めおきて、これはたれの召しぐし給ふ者ぞと尋ねければ、しやんともあき人も、あまりにいそほが見にくきことをはぢて、しらずと答ふ、いそほ此よしを承り、あなうれしの事や、われにぬしなしといひていさみあへる、其時しやんとも商人も、これは我所從にて候とのたまひ、それよりしやんと、いそほをめしつれ、我
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