第二 荷物をもつ事
ある時、しやんと旅におもむかせ給ふ、下人共に荷物を充てをこなふ、われも〳〵と、かろき荷物をあらそひ取て、これを持、こゝに食物をいれたる物有けり、そのおもきにおそれて、これをもつ人なし、さればとていそほ辭するにをよばず、何事も殿の御奉公ならばとて、これをもつ、其日の重荷、いそほにすぎたる者なしと皆人いひけり、日數へて行程に、此食物を常に用ゆ、かるが故に、日にそへてかろく成けり、はてにはいとかろきにも持けり、あつぱれかしこきこゝろあてかなとて、そねみたまふ人々ありけり、
第三 柿を吐却する事
ある時、しやんとのもとへ、柿を送る人有けり、彼所從等、此かき喰つくして、いそほが臥たりけるふところに、一つ二つをしいれて、かれに難おほせける、ややあつてのち、しやんと、彼柿をこひいださる、各しらずとこたふ、しやんと、あやしみ尋ければ、各ひとつ口に申けるは、其柿はいそほこそしり侍らめと云、さらばとて、いそほを召しいだし尋ね給ふに、案のごとく、懷に柿有、あはやとこれをきうめいするに、いそほ申けるは、罪科のがれがたく候、然れ共それがし申さんことを、傍輩等にも仰付させ給へかしと申ければ、しやんと、かれが望みをとげさせ給ふ、其はかりごとといつぱ、各傍輩等を御前に召し出され、酒をくだされて侍るならば、吐却をせんこと有べし、其柿を吐却したらん者を、某によらず其とがたるべしと申、しやんとげにもとおもひて、其計略をなし給ふに、たな心をさすがごとく、すこしもたがはず、彼柿をぬすみくひたる者とも、一度にときやくす、さるによりていそほはとがなく、はうばいともはつみをかうぶりける、いそほが當座のきてんきどくとぞ、人々かんじ給ひけり、
第四 農人の不審の事
ある時、しやんと山野に逍遙して、いそほをめしつれ給ふ、爰に農人、しやんとに尋申、それ天地の間に、生る所の草木を見るに、たゞ雨露のめぐみを以て、生長することなし、此いはれいかにとおもふ、しやんと答云、たゞこれ天道のめぐみなりとのたまふ、其時いそほあざ笑て云、さやうの御こたへは、あまりをろかに