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臣未だ和せず、溝壘未だ成らず、禁令未だ施さず、三軍恟々すゝまんと欲して能はず、去らんと欲するも敢てせずば、半を以て倍を擊ち百戰あやふからず。」

 武侯、敵必ず擊つべきの道を問ふ。起對へて曰く、「兵を用ふる必ず須らく敵の虛實をつまびらかにして其危きにおもむくべし。敵人遠く來りあらたに至り、行列未だ定まらざる、擊つべし。旣に食して未だそなへを設けざる、擊つべし。奔走せる、擊つべし。勤勞せる、擊つべし。未だ地の利を得ざる、擊つべし。時を失ひ從はざる、擊つべし。長道をわたり後れ行きて未だいこはざる、擊つべし。水をわたり半ば渡る、擊つべし。險道狹路、擊つべし。旌旗亂動する、擊つべし。陣數〻しば移り動く、擊つべし。將、士卒を離る、擊つべし。心怖る、撃つべし。凡そ此のごとき者、銳を選んで之を衝き兵を分つて之れに繼ぎ、急に擊て疑ふこと勿れ。」


治兵第三

 武侯問うて曰く、「兵を用ふるの道何れを先きにせん。」起對へて曰く、「まづ四輕二重一信を明かにすべし。」曰く、「何の謂ぞや。」對へて曰く、「地をして馬を輕からしめ、馬をして車を輕からしめ、車をして人を輕からしめ、人をして戰を輕からしむ。明かに險易を知れば則ち、地、馬を