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投ぜば、其將取るべし。楚の性は弱なり。其地廣く、其政さわがしく、其民疲る、故に整て久しからず、此れを擊つの道、其たむろを襲ひ亂し、先づ其氣を奪ひ、輕く進み速かに退き、つひえしめて之をくるしめ、ともに爭ひ戰ふこと勿れ、其軍敗るべし。燕の性はかくなり。其民謹みて勇義を好み詐謀寡し。故に守つて走らず。此れを擊つの道、觸れて之れにまり、凌いで之れに遠ざかり、馳せて之れを後ろにす、則ち上疑つて下懼れん、我車騎を謹んで必ず之れを路に避けば、其將とりこにすべし。三晋は中國なり、其性和にして其政平かなり。其民戰に疲れ、兵に習ひ、其將を輕んじ其祿を薄くし、士死するの志なし、ゆゑに治つて用ゐられず。此れを擊つの道、陣をへだてゝ之れを壓し、衆來らば則ち之れをふせぎ、去らば則ち之れをひ、以て其師をつからす、これ其勢なり。然るときは一軍の中必ず虎賁の士あり、力かなへあぐるより輕く、足戎馬より輕く、旗をり將を斬るに必ず能くする者あらん、かくごときのたぐひ選んで之れを別ち愛して之を貴ぶ、是れを軍命といふ。其のたくみに五兵を用ゐるありて、材力健疾、志敵を呑むにある者は、必ず其爵列を加へて以て勝を決すべし。其の父母妻子を厚うし賞を勸め罰を畏れしむ、これ陣を堅うするの士、ともに久しきを持すべし、能くつまびらかにこれを料り以てそむくを擊つべし。」と。武侯曰く「善い哉。」

 吳子曰く、「凡そ敵をはかるに卜せずして之れと戰ふ者八あり。一に曰く、疾風大寒、早く興きいね