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Page:Arai hakuseki zenshu 4.djvu/790

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附錄〈大西人、始來りし時の事、こゝに見えたり〉

大隅國馭謨郡の海上、屋久ヤク島の地栗生クリフ村といふところに、阿波國久保クボ浦といふ所の漁人等、來り止りて、魚捕る事を業とするあり、寶永五年戌子、八月廿八日、これら七人、舟をうかべて、同き島の湯泊ユドマリといふ村の沖に出づ、陸よりは三里許へだてたらむ海の上に、目なれぬ船の大きなるが、一隻うかびゐしを見つけて、栗生村をさして歸るに、彼大きなる船より、小きなる舟おろして、其舟に帆かけて、こなたの舟を追來る、こなたの舟にも帆かけてはしり歸るを、彼小舟にもうちがひといふ者を添て、追來るに、わづかに十間ばかりをへだてゝ見るに、其舟には、目なれねものども十人ばかり乘たるが其中一人、水をこふさましたり、こなたにもかなふまじき由のさまして、乘りゆくほどに、彼小舟も、大きなる船のかたにむかひて歸りぬ、此日の夕、同き島の南にあたる尾野間オノマといふ村の沖に、帆の數多き船の、小舟を引たるが一隻、東をさしてゆくあるを村のものども、あやしみ見て、打出て守り居るに、夜に入り空くもりぬれは、その行方をしらず、明れば廿九日の朝、尾野間より二里許の西にある湯泊といふ村の沖のかたに、きのふ見えしごとくの船見えしかど、北風つよくして、南をさしてゆきしほどに、午の時に至ては、帆影も見えずなりき、此日彼島の戀泊コヒドマリといふ村の人、〈藤兵衞といふ百姓也〉炭燒む料に、松下といふ所にゆきて木を伐るに、うしろのかたにして、人の聲したりけるをかへり見るに、刀帶たるものゝ手して招く一人あり、其いふ所のことばも聞わかつべからず、水をこふさまをしければ、器に水汲てさしをく、ちかづき吞て、又まねきしかど、その人、刀を帶たれば、おそれて近づかず、かれも其心をさとりぬと見えて、やがて、刀を鞘ながらぬきてさし出しければ、近づくに、黃金のカタなる、一つ取出してあたふ、此ものきのふ見えし船なる人の、陸に上りしにや、とおもひしかば、其刀をも金をもとらずして、磯の方に打出て見るに、其船も見えず、また外に人ありとも見えず、我すむ方にたち歸りて、近きほとりの村々に、人はしらかして、かくとつぐ、平田といふ村のもの二人、