Page:Arai hakuseki zenshu 4.djvu/783

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々、通事していはせし事ありしに、拜して後にこれに答ふ、これは、天すでに寒くして、其衣薄ければ、衣あたへしに、うけず、その故は、其敎戒に、その法を受ざる人の物、うくる事なきによれり、されど、飮食の物のごときは、其國命を達せむほどの性命のためなれば、日々に稟粟を費す事、國恩を荷ふ事すでに重し、いかで衣服の物まで給りて、我禁戒にそむくべき、はじめ、薩州の國守の給りし物、身にまとゐぬれば、寒をふせぐにたれり、心をわづらはし給ふ事あるべからずと、申切りたりし由也、此問對事終りて後、人々某を揖して坐をすゝめしめらる、此日は某、他事に及ばず、たゞ彼國地方の事など、通事に命じて問はしめて、其いふ所を聞く、〈萬國の圖を携ゆきて、其圖をしめしてたづねとふに、此圖は、此土にしてしるされし所なれば、精しからずといふ、奉行所に、ふるき圖ありと聞えしかば、かさねては、其圖を出さるべしと相約したりき、〉其問ふ所に答ふる所をきくに、かねておもひはかりしごとくに、事わづらはしからず、但しそのいふ所は、我國幾內山陰西南海道の方言うちまじりて、彼地方の聲音にて、操り出しぬれば、正しく其事とおもふも、疑ぬべき事あり、かれまた、そのいふところを、こなたの人の聞得がたき事もやあるとおもひしにや、必ずそのことばを反覆していふ、又あやまり傳へし事も、すくなからず、まして、彼地名人名に限りては、其土に稱ずるままにいひしかば、それらの事は、よくたづねきはめて、地名人名等をわかつ、又通事等は、阿蘭陀の語に學び熟しぬれば、舊習にひかれて、彼いふ所のごとくにいひ得がたき事どもあるを、をしへいふ事などもありし、かくして打聞く事、一時ばかりの後には、某も、みづから問ひもし、答へもする事共ありて、日すでに西に傾きしかば、奉行の人々に、又こそ參るべけれと、いとま乞ひす、こゝに至て、彼人、通事にむかひて、某こゝに來りし事は、我敎を傳へまいらせて、いかにも此土の人をも利し、世をも濟はむといふにあり、それに、某が來りしより、人々をはじめて、多くの人をわづらはし候事、誠に本意にあらず、こゝに來りしのち、年すでに暮むとし、天また寒く、雪もほどなく來らむとす、これにありあふ御侍を初て、人々日夜のさかひもなく、某を守り居給ふを、見るに忍びず、かく守り居給ふは、某もしもにげさる事もありなむがためにぞ候らむ、萬里の風波を凌ぎ來りしも、いかにもして、此土に參り