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 秋涼


里ちかく生れいでては法師蟬月の無常に魘されもする


ことごとく髪ふり乱す島に来てかたみに白き名残をくだく


夢に見るもののかたちのせつなさは古き仏のにもさやりぬ


けだものら已にけはひて青草の宵のいきれにわが血はにごる


甘藍は鉛のごとく葉をたれぬ暮れてひさしき土のほてりに


あかつきの干潟の砂はなめらかに不意にするどい狂気の懼れ


天地の虔󠄀しむなかをまぐはひつつ日月は黄金きんの谺に響けり (日蝕)


襲ひ来る翳あはただし天地にいやはての日の莫しと言はなくに