第二章 アイヌの風俗習慣
アイヌの風俗(ふうぞく)習慣(しふくわん)につきては、從來(じうらい)數多(あまた)の書物(しよもつ)に記(しる)されたれば、爰(こゝ)に重(かさ)ねて、くど〳〵しく說明(せつめい)するの必要(ひつえう)なかるべし。依(よ)つて唯(たゞ)心付(こゝろづ)きし事柄(ことがら)のみを述(の)べて、漏(も)れたるを補(おぎな)ふに止(とゞ)めんと欲(ほつ)す。
(一)文身に就きて
アイヌは男女(だんぢよ)共(とも)に首(くび)の邊(へん)まで毛髮(まうはつ)を垂(た)れ、其(そ)の上(うへ)男子(だんし)は男子(だんし)たるの威嚴(ゐげん)を保(たも)つべく蓄髯(ちくぜん)をなし、女子(ぢよし)は女子(ぢよし)らしく口邊(こうへん)又(また)は手(て)の甲(かふ)に文身(いれずみ)をなせり。
文身(いれずみ)の由來(ゆらい)を古老(こらう)の土人(どじん)に尋(たづ)ぬるに、確(かく)として信(しん)ずべき傳說(でんせつ)無(な)