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五 祓除と貨幣の關係 一七二

之を西洋の經濟史に就て考へますに、神への貢獻から延て君主への調貢が財の流通交換の一起源を爲したことは、今日殆んど動かす可からざる定說となつて居る樣でありまして、ビユヒアー先生の如き全く交換なき、流通なき自足經濟と云ふことに大に重きを置て說かるゝ學者も、如此一方的仕拂が交換の起源となると云ふことは認めて居られます。

依て思ひまするに祓除の習俗は交換賣買の事と關係ある如く、また貨幣の起源及發達に就ても甚だ密接なる關係を有して居るのではありますまいか。貨幣は交換の要具・價値の尺度として起つたと云ふ舊說には、今日歷史的硏究を重ずる學者は餘り信服して居らぬ事は、今更繰返へすまでもないことでありまして、演繹的に今日の發達した貨幣經濟の世に養はれた頭を以て、唯だ只だ理屈責めに貨幣の本質と起源を說くことの非なるは凡そ進步した學者は皆認めて居ります。貨幣は現今に於ても仕拂要具たること、其起源も亦仕拂要具たる事に存することに就ては、餘程守舊的な考を持て居る人の外は一樣に認めて居ることで、今更喋々するのは遼東の豕でありますが、私は我邦祓除の事賞は殊更に此仕拂要具たるの實を證明する力があることかと考へるものであります。