Page:死霊解脱物語聞書.pdf/8

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ども成が。ある日の事なるに。打寄ものかたりするやうは。今度かさねが怨灵おんれうあらわれ。与右衛門が恥辱ちじよくは。そのごふ。菊が苦痛くつうのふびん成に。いさともわびことし。怨灵すかしなだめんとて。名主年寄をはじめとして。少〻せう村中の男共。与右衛門が家にあつまりけり。先名主泡吹あわふき出し苦痛てんどうせるきくにむかいて問ていわく。なんぢ累がうらみはひとへに与右衛門にあるべし。何ゆへぞかくのごとく。よこさまに菊をせむるや。其時菊がくるしみたちまちんて。をきなをり答へていわくおゝせのごとく我与右衛門にとり付。則時そくじにせめころさんはいとやすけれ共。かれをばさて置。きくをなやますには色〻の子細しさい有。其故はまづさし當て与右衛門に。切成かなしみをかけ。其上一生のちじよくをあたへ。是を以て我が怨念おんねんを少しはらし。又各〻に菊が苦痛くつうを見せて。あわれみの心をおこさせ。わらわがぼだいをとわれんため。次に邪見じやけん成もの共の。長き見ごりにせんと思ひ。菊にとり付事かくのことしといへば。名主また問ていわくに尤もなりしかるに汝が此間のものかたりを聞ば。地獄ぢごくにおちて昼夜ちうや呵責かしやくにあいしといふすでに地獄の劫数こつしゆ久しき事は。娑婆しやば千万歳せんまんねんつくべからす。何のいとまありてかわづかに廿六年目に。奈落ならくを出て爰に來るや。怨灵答ていわく。さればとよ我いまだ地獄のごふことつきすといへども。少のひまをうかゝひ菊に取付は