らば国主の恩にそむかん事必せり。又衆生の恩にそむく事は。汝來て菊を責る故に。我〻既に苦労すかくのごとく。他人に苦をかくるを以て。衆生恩を報ずとせんや。上み件の三恩正にそむけり。汝若主人あらば不忠ならん事疑ひなし。さては何を以てか。報恩のしるべとせん。此道理を聞分あらぬ願ひをふりすて。只一筋に極楽へ参らんと思ひ。すみやかに爰をはなれよとぞ教へける。かさねにつこと打わらひて云様は。誠にそなたは。他在所の人なれども。おさなきより器用なる仁と聞及び。しうとめ御せんのこい婿になり。當村の名主をもたるゝ甲斐ありて。只今一〻の御教化実に以て聞事なり。去ながら其道理の趣く所。たゞ當前の少利をとつて幽遠廣博なる。深妙功徳の大報恩をかつて以てわきまへたまわず。我が報恩の所存を。よく〳〵聞せられて。早〻石佛を建て。其上に念佛供養をとげられ。我に手向たまへ。其故は若此石仏じやうじゆして我ねがひのかなふならば。菊は亡母に孝をたて。其縁にもよほされ。与右衛門が後世をもたすくならば。これ真実の報恩なるべし。扨當村の人〻此しるしを見るごとに。我事を思ひ出し。一返の念仏をも。となへたまふものならば。みづから大利を得たまふべしその上此石佛のあらんかぎりは。當村の子〻孫〻