Page:成沢玲川『米国物語』.djvu/89

外國電報に金（かね）の掛（かゝ）らぬ代（かは）りに、日本特電に少（すく）なからぬ費用を要する。無論日本 に於ける世（せ）界（かい）的（てき）の大事件は外國通信によつて知れるが、日本人間獨（どく）特（とく）の材（ざい）料（れう）は 日本特電として、本（ほん）塲（ば）所（しよ）の角力（すまう）の番（ばん）附（づけ）や勝負までが每日電通されて、見ぬ角力（すまう） に力（ちから）瘤（こぶ）を入れて居るのである。されば桑港博覽會を機（き）として渡（と）米（べい）した力士の一 行は至る所て同胞の熱（ねつ）烈（れつ）なる歡（くわん）迎（げい）を受け大金儲をしたに拘（かゝ）はらず、歸朝後新聞 記者に向（むか）つて在米同胞の惡口を叩（たゝ）いたとかで、布（は）哇（わい）あたりでは少なからず激（げき）昻（こう） して居る樣子である。序（ついで）だから言ふが、力士に限（かぎ）らず日本の藝人諸君はあちら で同胞の厄（やく）介（かい）になり、金を相應に儲（まう）けて歸（かへ）りながら、在留者の惡口を言ふ者が 多いので、在留者は此點に就て惡（あく）感（かん）を抱（いだ）いて居る。今後渡米藝人の大に注意す べき事と思（おも）ふ。

話（はな）しは思はず脫（だつ）線（せん）したが、經營の困難は之に止（とゞ）まらず、職工の賃銀の高價な