Page:成沢玲川『米国物語』.djvu/117

偖（さて）午（ご）餐（さん）や晩（ばん）餐（さん）には何が出るかといふと、スープ一皿（さら）、肉一皿（ロースト物は五 仙高）サラダにデザートが附く、パンとバタ及び飮（のみ）物（もの）は無料である。日本人は 洋食と云へば每日正餐（デンナー）の御（ご）馳（ち）走（そう）のやうに一度に五皿も八血も平（たひら）げるものゝやう に思つて居るが、普（ふ）通（つう）大（たい）抵（てい）肉（にく）の一皿とパンの二切位が關（せき）の山（やま）で、我々の三倍も あるやうな大きな西洋人が、あれで好（よ）く身體（からだ）が持てると思ふ位少食である。二 十五仙（セント）以上の食事でも別に皿數が多い譯（わけ）ではなく、原料とコツクの腕（うで）が善（い）いの と、食堂の諸設備が違（ちが）ふだけのものである。

西洋人に感心なことは食（しよく）堂（だう）に入るに容儀を正（たゞ）すことで、最下等の勞働者がテ ーグル〔ママ〕に就くのにも、顏（かほ）や手を洗（あら）ひ淸（きよ）め、頭髪を梳（くしけづ）つてからのことにする。 社交的な彼等は萬事に他人に不（ふ）快（くわい）の感を與（あた）へぬことを心掛けるのを禮（れい）として居 るからであるる〔ママ〕。