成吉思 汗 實錄チンギス カン ジツロク 卷マキの一イチ。(蒙古語の原の名は、忙豁侖 紐察 脫卜察安モンゴルン ニウチヤ トブチヤアン、譯すれば蒙古の祕史。忙豁侖は蒙古の、紐察は祕密、脫卜察安は實錄なり。委しくは序論の初に言へり。明譯本には、元朝 祕史と題して、その下に分注 二行あり。右は、忙豁侖 紐察の五字なり。左は、脫卜察安の四字なるべきを、今の鈔本には、卜の字を脫せり。卜は、母音なき巴行の音を譯せる字にて、細字 旁書なるが故に、影寫の際 脫し易し。本文にも、トの字の脫ちたるは、屢あり。二行の分注に、右 五字にて左 三字なる筈なければ、トの脫ちたりけんこと疑ひなし。)
元ゲンノ 太祖︀タイソ 在時イマセルトキ、漠北文臣バクホクノブンシン無名氏ムメイシ、以モテ㆓蒙古文モウコブン委兀兒字ウイウルモジヲ㆒撰述センジユツス。
明ミンノ 洪武コウブ十五年ジフゴネン、翰待講カンリンジコウ火原潔クワゲンケツ等ラ、漢︀字カンジニテ 音譯オンヤクシ、俗語ゾクゴニテ 旁譯ハウヤクス。
日本ニツポン明治メイジ三十九年サンジフクネン、盛岡モリオカノ那珂通世ナカミチヨ、以モテ㆓和文ワブンヲ㆒直譯チヨクヤクシ 附フス㆓校注カウチウヲ㆒。
§1(01:01:02)白鳥庫吉訳『音訳蒙文元朝秘史』(東洋文庫,1943年)
成吉思 合罕チンギス カガンの根原オホモト。
上天タカマノハラより命ミコトありて生ウマれたる蒼アヲき狼オホカミありき。(蒙語孛兒帖 赤那ボルテ チノ、蒙古 源流布爾特 齊諾ブルテ チノ。この注に引ける蒙古 源流は、乾隆︀の史臣の飜譯せる漢︀文の本なり。昨年 乙巳の九月、我が友 內藤 湖南は、盛京