Page:小倉進平『南部朝鮮の方言』.djvu/188

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所を補ひ、共々に朝鮮語の歷史的調查に向つて研究の步武を進められんことを。

二 朝鮮語の歷史的研究上より見たる濟州島方言の價値

余は明治四十四年全羅南道濟州島に赴き、方言の調查に從事し、其の結果を大正二年 三月發行の「朝鮮及滿洲」誌上に發表したことがある。併しながら當時に於ける朝鮮 語に對する余の知識は今日以上貧弱なものであり、同島方言の學術上の價値を云々 するに足る自信と勇氣とを有しなかつたので、幾多の貴ぶべき資料は徒らに篋底に 藏せらるゝ狀態にあつた。然るに其の後余は各地に亘つて方言を調查する便宜を與 へられ、又多少朝鮮の古書に就き朝鮮語の歷史的變遷をも考察する機會を得つゝあ るので、篋底の至寶を空しく放置することの、自己の責任を永遠に果さざるの議りを 免るゝ能はざるを感じ、自ら良心の呵嘖に苦しめらるゝこと久しきに亘つた。余が玆 に該島方言の語學上の價値に就き一言し、江湖の叱正を仰がんとする所以も、此の點