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第四編 參考論文

一、新羅語と慶尙北道方言

慶尙南北道は新羅の故地であつて、該地方には今尙ほ千餘年前の古語を存すとはよ く世人のいふ所である。余は余の見る所に從つて該地方の方言を觀察し、同學者の 批評と示敎とを仰ぎたいと思ふ。

慶尙南北道は新羅以前三韓時代に於ては大體弁韓・辰韓に屬した。弁韓の言語に關 しては「魏志東夷傳」中に

「弁韓は辰韓と雜居し、亦城郭あり、衣服居處辰韓と同じ。言語法俗相似たり。 云々」

とて弁韓は辰韓語と相似たるものあることを述べて居るが、「後漢書」には

「弁辰は辰韓と雜居し、城郭衣服皆同じく言語風俗異なるあり、其の國倭に近し。 故に文身する者あり。云々」