を見ん。今代の稱謂の若きに至りては、則ち謹みて奕葉名爵天下公行の稱に據る。名實輕重、跡を按じて知る可し。敢て私に名號を撰びて、今代を黷して後世の耳目を眯さず。首を閱し尾に至り、其得失の相形を睹、其分裂統合の漸する所を明にすれば、則ち今日無前の功德は、言を待たざる者有り。又敢て喋喋頌贊して人をして其諛と溢とを疑はしめず。自ら謂へらく、敬の至れるなりと。凡そ是れ襄が區區撰述の本意、閣下の爲に之を一言せざるべからず。野人朴直、所謂求むる無きの心を以て書を著し、其簡約を取りて、自ら省覽に便にす。始より之を世に公にせんと謀るに非ず。引据剪裁、皆一家私乘の體を成す所以なり。寫錄體貌に至りては、又一に古史に倣ふ。肯て輓近の文縟を學ばず。是を以て拮据二十餘年、之を篋笥に藏して、未だ嘗て人に示さず。今乃ち閣下の寓目を得て、信を天下後世に取る。眞に意外の幸なり。襄、今日に求むる無しと雖も、千百載に求むる無からず。
大賢の鑒識を經るに非ずば、其傳らんことを保するに足らざるなり。然れども苟も流傳を得ば、今と後とを別たず、其れ世道人心に損益せん。尤も謹を加へざる可からず。襄や病羸、力を父母の邦に效す能はず。況や敢て世に益する有るを望まんや。然れども生れて此極盛の運に遭ひ、其庸陋の筆墨を以て萬一を裨補すれば、則ち太平の民たるに負かざるなり。蘇轍、魏公に謂へらく、苟も以て敎ふべしと爲してこれを敎ふれば則ち幸なりと。閣下、其れ亦襄に敎ふる有れ。尊嚴を冒瀆す。惶懼已む無し。
文政十年丁亥五月二十一日、布衣賴襄謹みて再拜して白す。