Page:上白河侯書.pdf/2

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 轍の書に稱す、史遷の文は奇氣有りと。他日自ら古史を作る。則ち遷の疎略輕信、淺陋無識を論ず。夫れ遷は太史に官して、天下の文籍を總領す。猶疎略のそしりを免れず。況や襄の如きは寒陋の一書生を以て、獨力古今を罔羅まうらす。其自らはからずして大方の嗤笑しせうまねかんこと、必せり。然れども少小より國乘を嗜讀しどくし、每に常藩史の浩穰かうじやううれへ、又其闕有るを恨む。近代の事と、夫の隆治りうちの由る所とに至りては、先輩の撰著無きに非ざるも、又未だ其端緖をあきらかにし、各家の終始をぶる者有らず。是に於て、ひそかに遷の史の世家にならひて詳備を加へ、源平氏より斷ちて、今代に至る。ま〻、中興の諸將、及び割據の群雄の治亂に關係する者を以て、家別に之をし、或はまじへて之を合す。えうするに、其成敗盛衰の狀と、臣屬の謀戰忠邪の跡とを覽て、其大體最も明確なる者を取る。博引はくいん傍搜ばうしう錙銖ししゆ辨析べんせきするが若きは、世に自ら其人有り。以爲へらく、襄輩の及ぶ所に非ざるなりと。

 其義例に至りては、蓋し亦淺陋のあざけりのこす者有り。事、一姓の下にか〻れるに、統紀とうきして之をぶる有らず。將家を列ねてまじふるに雄長を以てす。今代を擧げて稱謂論說し、尊崇を缺くが如きは、是れ自ら說有り、夫れ右族いうぞくたがひに興り、甲起り乙仆れて、海宇の沿革を成す。而して必ずしも王室に關せざるは、中世以還いくわんの國勢なり。故に實に據りて體を創め、以て世變をあらはす。而して其中に貫くに帝系年號を以てして、條理を表す、大義の繫る所に至りては、必ず特書を用ゐる。權豪を元帥にまじふと雖、成敗に隨ひて次第して、署題に因りて統屬をしめす。而して之が事實を載せて、名文截然さいぜんたること、讀者おのづから能く之