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 ―― A Parable


監獄。


死刑


絞首台。滅法細長くて高い。

その天辺に吊し上げられた男。

男の逞しい両足にぶら下がっている二つの大きな鉄の玉。

総理大臣があわただしく這入って来る。

王子殿下の御足だ!

たち頭を下げる。

総理大臣手を振って獄に命令する。

男の体が引き下ろされる。……

監獄病院の手術室。

男の体が手術台の上に横たわっている。

鉄の玉を結びつけられた男の足。

白い消毒衣を着た博士の手が輝く大鋸で男の下肢を切断する。そして代りに痩せて弱々しい小いママさな下肢をつなぐ。

その足は見すぼらしい女の子の靴をはいている。……


特赦


監獄の門。男がよろめき乍ら出て来る。

女の子の足である。

男は一つ大きくのびをして、さてふところから手一っぱいの紙幣をつかみ出して眺める。

新しい大きな希望が男を感動させる。

危い女の子の足が兵士の行進のように勇ましく踏む………


街へ


街。道ばたに群がる群衆。みんな手に手に旗を打ち振っている。

男が群衆の一人に訊ねる。

王子さまの御足がお癒りになったのです

やがて王子の行列が差しかかる。

太鼓をたたく者。横笛を吹く者。ラツパを鳴らす者。

美々しい軍服の兵士達。


そして王子――


美少年の王子。

だが王子の足ははだしだ。それはまことにけだものの足のように逞しくて、しかも大きな鉄の玉が一つずつ結びつけてある。

その鉄の玉を四人の侍従が力を合せて担いでゆく。

群衆は王子を見て旗を振り乍ら万歳々々と叫び立てる。

男はおどろいて

それから腹を抱えて笑いころげる。……

贅沢なる料理店。

紳士たち。淑女たち。

クヮドリールを踊る踊子たち。


哀れな女の子


勘定台の上で、愁しい顔をした痩せた女の子がその踊を見ている。

男が這入って来る。

あまり卑しい身形みなりなので、踊子も給仕も尻目にかけて行き過ぎる。

男はそこでさっきの紙幣をバラ撒く。

忽ち踊子たちは男の体にむれたかり、給仕たちは床を這い廻る。

他のお客たちは皆啞然とする。

勘定台の上の痩せた女の子が男を見る。

小いママさな女靴をはいた男の細い足。

勘定台の上の痩せた女の子の眼が輝く。

男は酔っぱらった。

踊子たちは男に踊ることをすすめる。

けれども男は決して踊らない。

勘定台の上の痩せた女の子の眼が何時迄も男の足に食い入った儘はなれない。

男はやがてそれに気が付く。

男はコップを痩せた女の子になげつけて

そして勘定台から引きずり落とす。

女の子は床の上にころび乍ら泣く。

女の子に、足が両方ともない!

女の子は男の足をさして叫ぶ。

その足を返しておくれ!

男の顔が蒼ざめる。

男はよろばい乍ら、顔を覆うてその場から逃れ出る……

自動電話。

男がけたたましく電話をかける。

総理大臣ヤアファル!

総理大臣室にあって総理大臣が受話機をとる。

男は叫ぶ。

王子の古い足は何処にあるのだ?!

大臣答える。

国立博物館にございます

男は自動電話室を飛び出す……

国立博物館へ、男の乗った自動車が真一文字にはしる。

博物館のうす暗い石造の室。

室の中央に大きなガラスの箱が置いてある。

二人の番兵が銃剣を持って厳しく両側に立っている。

男が飛び込んで来て、そのガラスの箱を覗き込む。


死んでいる足!


ガラス箱の中には、アルコール漬になって二本の大根のように膨らんだ白い足。

王子グリ・ウリ殿下のお足――と書いた貼り紙。

男は、いきなりガラスを打ち破ってその足を盗もうとする。

そこで二人の番兵は両方から銃剣で男を突き刺してしまった。

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