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象牙の位置 (牧野虚太郎)

提供:Wikisource


沈黙が破られて一杯の水がくまれ
泡沫の中に鏡の態度が迫る
透明を遠く呼びながら
みづからを越えて
胎動の新しさに出発した

あなたの細い時間を返して
高い道を歩く
すべてがすべてに倒れ
噴水を集めては転落の日を數へてゐた
私は靜かに黎明を繰つてゐる

眠りが許され
野菜の生活が許され
あなたの奏する腰の雰囲気では
交叉点が小さく響き
あなたの笑ひをすぎて
私の職業に涼しさが消える
出血の夜みなれない友を迎へた

自殺のために
しかし一塊の抽象を叩き
あなたを忘れる成熟のなかで
眼鏡の疲れをふき
夜のあたひに叫ぼうとする

樹上の淋しさよ
窓に答へて
あなたの大きさを盜みたいと思ふ