論語 (Wikisource)/八佾第三
孔子謂フ㆓季氏ヲ㆒:「八佾舞ハス㆓於庭ニ㆒、是レヲモ可クンバ㆑忍ブ也、孰レヲカ不㆑可カラ㆑忍ブ也?!」
- 孔子 季氏を謂ふ、「
八佾 庭に舞はす、是れをも忍ぶべくんば、孰 れをか忍ぶ可からざらんや?!」
三家者、以テ㆑雍ヲ徹ス。子曰ク:「『相クルハ維レ辟公、天子穆穆タリ。』ト奚ゾ取ラン㆓於三家之堂ニ㆒?」
- 三家者、
雍 を以て徹す。子曰く、「『相 くるは維 れ辟公、天子穆穆 たり』と。奚 ぞ三家の堂に取らん?」
子曰ク:「人ニシテ而不ンバ㆑仁ナラ、如㆑禮ヲ何?人而不仁、如㆑樂ヲ何?」
- 子曰く、「人にして仁ならずんば、礼をいかん?人にして仁ならずんば、楽をいかん?」
林放問フ㆓禮之本ヲ㆓。子曰ク:「大ナル哉問ヒヤ!禮ハ、與リハ㆓其ノ奢ラン㆒也、寧ロ儉セヨ。喪ハ、與リハ㆓其ノ易メン㆒也、寧ロ戚メヨ。」
林放 礼の本を問ふ。子曰く、「大なるかな問ひや!礼は、其の奢らんよりは、寧 ろ倹せよ。喪は、其の易 めんよりは、寧ろ戚 めよ。」
子曰ク:「夷狄之有ルハ㆑君、不ル㆑如カ㆓諸夏之亡ニ㆓也。」
- 子曰く、「夷狄の君有るは、諸夏の亡きに如かざるなり。」
季氏旅ス㆓於泰山ニ㆒。子謂ヒテ㆒冉有ニ㆒曰ク:「女弗ル㆑能ハ㆑救フコト與?」對ヘテ曰ク:「不㆑能ハ。」子曰ク:「嗚呼!曾チ謂ヘル㆔泰山ヲ不ト㆑如カ㆓林放ニモ㆒乎?」
- 季氏 泰山に旅す。子 冉有に謂ひて曰く、「
女 救ふこと能 はざるか?」対へて曰く、「能はず。」子曰く、「嗚呼 !曽 ち泰山を林放に如かずと謂 へるか?」
子曰ク:「君子ハ無シ㆑所㆑爭フ、必ズ也射乎。揖讓シテ而升、下而飮、其ノ爭ヒ也君子ナリ。」
- 子曰く、「君子は争ふ所無し、必ずや射か。
揖譲 して升り、下りて飲む、其の争ひや君子なり。」
子夏問曰ク:「『巧笑倩タリ兮、美目盼タリ兮、素以テ爲ストハ㆑絢ヲ兮。』何ノ謂ヒゾ也?」子曰ク:「繪ノ事ハ後ニス㆑素ヲ。」曰ク:「禮ハ後乎?」子曰ク:「起コス㆑予ヲ者ハ商也。始メテ可キ㆓與ニ言フ㆒㆑『詩』ヲ已矣。」
- 子夏問ひて曰く、「『巧笑
倩 たり、美目盼 たり、素以て絢を為す。』とは、何の謂ひぞや?」子曰く、「絵の事は素を後にす。」曰く、「礼は後か?」子曰く、「予 を起こす者は商なり。始めて与 に『詩』を言ふべきのみ。」
子曰ク:「夏ノ禮ハ、吾能ク言ヘドモ㆑之ヲ、杞ハ不ル㆑足ラ㆑徴トスルニ也。殷ノ禮ハ、吾能ク言ヘドモ㆑之ヲ、宋ハ不ル㆑足ラ㆑徴トスルニ也。文獻不ルガ㆑足ラ故也。足ラバ、則チ吾能ク徴トセン㆑之ヲ矣。」
- 子曰く、「夏の礼は、吾能く之を言へども、杞は徴とするに足らざるなり。殷の礼は、吾能く之を言へども、宋は徴とするに足らざるなり。文献足らざるが故なり。足らば、則ち吾能く之を徴とせん。」
子曰ク:「禘自リ㆓既ニ灌シテ㆒而往者、吾不㆑欲セ㆑觀ルコトヲ㆑之ヲ矣。」
- 子曰く、「
禘 既に潅してより往 は、吾 之を観ることを欲せず。」
或ルヒト問フ㆓禘之説ヲ㆒。子曰ク:「不ル㆑知ラ也。知ル㆓其ノ説ヲ㆒者之於ケル㆓天下ニ㆒也、其レ如キ㆔示スガ㆓諸ヲ斯ニ㆒乎?」指ス㆓其ノ掌ヲ㆒。
- 或るひと禘の説を問ふ。子曰く、「知らざるなり。其の説を知る者の天下に於けるや、其れ
諸 を斯 に示すが如きか?」と。其の掌を指す。
祭ルコト如クシ㆑在マスガ、祭ルコト㆑神ヲ如クス㆓神在マスガ㆒。子曰ク:「吾不バ㆑與ラ㆑祭ニ、如シ㆑不ルガ㆑祭ラ。」
- 祭ること
在 ますが如くし、神を祭ること神在ますが如くす。子曰く、「吾祭に与 らざれば、祭らざるが如し。」
王孫賈問ヒテ曰ク:「『與リ㆔其ノ媚ビン㆓於奧ニ㆒、寧ロ媚ビヨトハ㆓於竈ニ㆒。』何ノ謂ヒゾ也?」子曰ク:「不㆑然ラ。獲レバ㆓罪ヲ於天ニ㆒、無キ㆑所㆑禱ル也。」
- 王孫賈問ひて曰く、「『其の奥に媚びんよりは、寧ろ竃に媚びよ。』とは、何の謂ひぞや?」子曰く、「然らず。罪を天に獲れば、祷る所無きなり。」
子曰ク:「周ハ監ミテ㆓於二代ニ㆒、郁郁乎トシテ文ナル哉!吾ハ從ハン㆑周ニ。」
- 子曰く、「周は二代に
監 みて、郁郁乎として文なるかな!吾は周に従はん。」
子入リテ㆓太廟ニ㆒、毎ニ㆑事問フ。或ルヒト曰ク:「孰カ謂フ㆓鄹人之子ヲ知ルト㆒㆑禮ヲ乎?入リテ㆓太廟ニ㆒、毎ニ㆑事問フ。」子聞キテ㆑之ヲ曰ク:「是レ禮也。」
- 子 大廟に入りて、事毎に問ふ。或るひと曰く、「
孰 か鄹 人の子を礼を知ると謂ふや?大廟に入りて、事毎に問ふ。」子 之を聞きて曰く、「是れ礼なり。」
子曰ク:「射ハ不㆑主トセ㆑皮ヲ、爲スニ㆑力ヲ不㆑同ジクセ㆑科ヲ、古之道也。」
- 子曰く、「射は皮を主とせず、力を為すに科を同じくせず、古の道なり。」
子貢欲ス㆑去ラント㆓告朔之餼羊ヲ㆒。子曰ク:「賜也!爾ハ愛シム㆓其ノ羊ヲ㆒、我ハ愛シム㆓其ノ禮ヲ㆒。」
- 子貢 告朔の
餼羊 を去らんと欲す。子曰く、「賜や。爾は其の羊を愛しむ、我は其の礼を愛しむ。」
子曰ク:「事フルニ㆑君ニ盡クセバ㆑禮ヲ、人以テ爲ス㆑
- 子曰く、「君に事ふるに礼を尽くせば、人以て諂へりと為す。」
定公問:「君使ヒ㆑臣ヲ、臣事フルコト㆑君ニ、如㆑之ヲ何?」孔子對ヘテ曰ク:「君使フニ㆑臣ヲ以テシ㆑禮ヲ、臣事フルニ㆑君ニ以テス㆑忠ヲ。」
- 定公問ふ、「君 臣を使ひ、臣 君に事ふること、之をいかん?」孔子対へて曰く、「君 臣を使ふに礼を以てし、臣 君に事ふるに忠を以てす。」
子曰ク:「『關雎』ハ、樂シミテ而不㆑淫セ、哀シミテ而不㆑傷ラ。」
- 子曰く、「『
関雎 』は、楽しみて淫せず、哀しみて傷 らず。」
哀公問フ㆓社ヲ於宰我ニ。宰我對ヘテ曰ク:「夏后氏ハ以テシ㆑松ヲ、殷人ハ以テシ㆑柏ヲ、周人ハ以テス㆑栗ヲ。曰ク:『使ム㆓民ヲシテ戰栗セ㆒。』子聞キテ㆑之ヲ、曰ク:「成事ハ不㆑説カ、遂事ハ不㆑諫メ、既往ハ不㆑咎メ。」
- 哀公 社を宰我に問ふ。宰我対へて曰く、「夏后氏は松を以てし、殷人は柏を以てし、周人栗を以てす。曰く、『民をして戦栗せしむ』と。」子之を聞きて、曰く、「成事は説かず、遂事は諌めず、既往は咎めず。」
子曰ク:「管仲之器ハ小ナル哉!」或ルヒト曰ク:「管仲ハ儉ナル乎?」曰ク:「管氏ニ有リ㆓三歸㆒、官ノ事ハ不㆑攝ネ、焉ンゾ得ン㆑儉ナルヲ?」「然ラバ則チ管仲ハ知ル㆑禮ヲ乎?」曰ク:「邦君樹シテ塞グ㆑門ヲ、管氏モ亦タ樹シテ塞グ㆑門ヲ。邦君爲スニ㆓兩君之好ヲ㆒、有リ㆓反坫㆒、管氏モ亦タ有リ㆓反坫㆒。管氏ニシテ而知ラバ㆑禮ヲ、孰カ不ン㆑知ラ㆑禮ヲ?」
- 子曰く、「管仲の器は小なるかな!」或るひと曰く、「管仲は倹なるか?」曰く、「管氏に三帰有り、官の事は
摂 ねず。焉んぞ倹なるを得ん?」「然らば則ち管仲礼を知るか?」曰く、「邦君 樹して門を塞ぐ、管氏も亦た樹して門を塞ぐ。邦君 両君の好を為すに、反坫 有り、管氏も亦た反坫有り。管氏にして礼を知らば、孰か礼を知らざらん?」
子語リテ㆓魯大師ニ樂ヲ㆒、曰ク:「樂ハ其レ可キ㆑知ル也。始テ作リニ、翕如タリ也。從チテ㆑之ヲ、純如タリ也、皦如タリ也、繹如タリ也。以テ成ル。」
- 子 魯大師に楽を語りて、曰く、「楽は其れ知るべきなり。始めて作すに、
翕如 たり。之を従 ちて、純如たり、皦如 たり、繹如 たり。以て成る。」
儀ノ封人請フ㆑見えんこと、曰ク:「君子之至ル㆓於斯ニ㆒也、吾未ダル㆓嘗テ不ンバアラ㆒㆑得㆑見ルコトヲ也。」從者見エシム㆑之ヲ。出デテ曰ク:「二三子、何ゾ患ヘン㆓於喪スルコトヲ㆒乎?天下之無キ㆑道也久シ矣、天將ニ㆘以テ㆓夫子ヲ㆒爲サント㆗木鐸ト㆖。」
- 儀の封人
見 えんことを請ふ、曰く、「君子の斯 に至るや、吾未だ嘗 て見ることを得ずんばあらざるなり。」従者之を見えしむ。出でて曰く、「二三子、何ぞ喪することを患へんや?天下の道無きや久し。天将に夫子を以て木鐸 と為さんとす。」
子謂フ㆑韶ヲ:「盡クセリ㆑美ヲ矣、又タ盡クセリ㆑善ヲ也。」謂フ㆑武ヲ:「盡クセリ㆑美ヲ矣、未ダ㆑盡クサ㆑善ヲ也。」
- 子
韶 を謂ふ、「美を尽せり、又た善を尽くせり。」武を謂はく、「美を尽くせり、未だ善を尽くさず。」
子曰ク:「居テ㆑上ニ不㆑寬ナラ、爲シテ㆑禮ヲ不㆑敬ナラ、臨ミテ㆑喪ニ不ンバ㆑哀シマ、吾何ヲ以テカ觀ン㆑之ヲ哉!」
- 子曰く、「上に居て寛ならず、礼を為して敬ならず、喪に臨みて哀しまずんば、吾何を以てか之を観んや!」