雍也第六
六之一
子曰:「雍也,可使南面。」仲弓問子桑伯子。子曰:「可也,簡。」仲弓曰:「居敬而行簡,以臨其民,不亦可乎?居簡而行簡,無乃大簡乎?」子曰:「雍之言然。」
〈子曰く、雍や南面せしむべし。仲弓子桑伯子を問ふ、子曰く、可なり。簡なればなり。仲弓曰く、敬に居て簡を行ひ、以て其の民に臨む、亦可ならずや。簡に居て簡を行ふは、乃ち大簡なる無からむか。子曰く雍の言然り。〉
六之二
哀公問:「弟子孰爲好學?」孔子對曰:「有顏回者,好學;不遷怒,不貳過,不幸短命死矣!今也則亡,未聞好學者也。」
〈哀公問ふ、弟子孰か學を好むと爲す。孔子對へて曰く、顏回といふ者あり學を好めり、怒を遷さず、過を貳びせざりき、不幸短命にして死し、今は則ち亡し。未だ學を好む者を聞かざるなり。〉
六之三
子華使於齊,冉子爲其母請粟。子曰:「與之釜。」請益,曰:「與之庾。」冉子與之粟五秉。子曰:「赤之適齊也,乘肥馬,衣輕裘;吾聞之也:君子周急不繼富。」原思爲之宰,與之粟九百,辭。子曰:「毋!以與爾鄰里鄕黨乎!」
〈子華齊に使す。冉子其の母の爲に粟を請ふ。子曰く、之に釜を與へよ。益を請ふ。曰く、之に庾を與へよ。冉子之に粟五秉を與ふ。子曰く、赤の齊に適くや、肥馬に乘り、輕裘を衣たり。吾之を聞く、君子は急を周うて、富めるに繼がずと。原思、之が宰たり、之に粟九百を與ふ。辭す。子曰く、毋れ、以て爾の鄰里鄕黨に與へよと。〉
六之四
子謂仲弓曰:「犁牛之子,騂且角;雖欲勿用,山川其舍諸?」
〈子、仲弓を謂つて曰く、犁牛の子、騂うして且つ角あらば、用ゐること勿らんと欲すと雖も、山川其れ諸を舍かむや。〉
六之五
子曰:「回也,其心三月不違仁,其餘,則日月至焉而已矣。」
〈子曰く、回や、其の心三月仁に違はず。其の餘は則ち日月に至るのみ。〉
六之六
季康子問:「仲由可使從政也與?」子曰:「由也果,於從政乎何有?」曰:「賜也可使從政也與?」曰:「賜也達,於從政乎何有!」曰:「求也可使從政也與?」曰:「求也藝,於從政乎何有?」
〈季康子問ふ、仲由は政に從はしむ可きか。子曰く、由や果なり、政に從ふに於て、何か有らむ。曰く、賜や政に從はしむ可きか。曰く、賜や達なり、政に從ふに於て、何か有らむ。曰く、求や政に從はしむ可きか。曰く、求や藝あり、政に從ふに於て、何か有らむ。〉
六之七
季氏使閔子騫爲費宰。閔子騫曰:「善爲我辭焉。如有復我者,則吾必在汶上矣。」
〈季氏閔子騫をして費の宰たらしむ。閔子騫曰く、善く我が爲に辭せよ。如し我を復びすること有らば、則ち吾は必ず汶の上に在らむと。〉
六之八
伯牛有疾,子問之,自牖執其手,曰:「亡之,命矣夫!斯人也,而有斯疾也!斯人也,而有斯疾也!」
〈伯牛疾有り。子之を問ひ、牖より其の手を執る。曰く、之を亡はむ、命なるかな。斯の人にして斯の疾あるや、斯の人にして斯の疾あるやと。〉
六之九
子曰:「賢哉回也!一簞食,一瓢飮,在陋巷,人不堪其憂,回也不改其樂。賢哉回也!」
〈子曰く、賢なるかな回や。一簞の食、一瓢の飮、陋巷に在り。人は其の憂に堪へず、回や其の樂を改めず。賢なるかな回や。〉
六之十
冉求曰:「非不說子之道,力不足也。」子曰:「力不足者,中道而廢;今女畫。」
〈冉求曰く、子の道を說ばざるに非ず、力足らざるなり。子曰く、力足らざる者は、中道にして廢す、今女は畫れりと。〉
六之十一
子謂子夏曰:「女爲君子儒,無爲小人儒。」
〈子、子夏に謂つて曰く、女君子の儒と爲れ、小人の儒と爲ること無かれ。〉
六之十二
子游爲武城宰。子曰:「女得人焉耳乎?」曰:「有澹臺滅明者,行不由徑;非公事,未嘗至於偃之室也。」
〈子游武城の宰たり。子曰く、女人を得たるか。曰く、澹臺滅明といふ者あり、行くに徑に由らず。公事に非ざれば、未だ嘗て偃の室に至らざるなり。〉
六之十三
子曰:「孟之反不伐,奔而殿,將入門,策其馬,曰:『非敢後也,馬不進也。』」
〈子曰く、孟之反伐らず。奔つて殿せり。將に門に入らむとするとき、其の馬に策ちて曰く、敢て後れたるに非ざるなり、馬進まざればなりと。〉
六之十四
子曰:「不有祝鮀之佞,而有宋朝之美,難乎免於今之世矣。」
〈子曰く、祝鮀の佞あらずして、宋朝の美あらば、難いかな今の世に免れむこと。〉
六之十五
子曰:「誰能出不由戶?何莫由斯道也!」
〈子曰く、誰か能く出づるに戶に由らざらむ。何か斯の道に由ること莫からむ。〉
六之十六
子曰:「質勝文則野,文勝質則史。文質彬彬,然後君子。」
〈子曰く、質文に勝てば則ち野なり、文質に勝てば則ち史なり、文質彬彬として、然る後に君子なり。〉
六之十七
子曰:「人之生也直,罔之生也幸而免。」
〈子曰く、人の生きるは直ければなり。罔の生きるは、幸にして免るるなり。〉
六之十八
子曰:「知之者,不如好之者,好之者,不如樂之者。」
〈子曰く、之を知る者は、之を好む者に如かず。之を好む者は、之を樂む者に如かず。〉
六之十九
子曰:「中人以上,可以語上也;中人以下,不可以語上也。」
〈子曰く、中人以上には、以て上を語る可きなり。中人以下には、以て上を語る可からざるなり。〉
六之二十
樊遲問知。子曰:「務民之義,敬鬼神而遠之,可謂知矣。」問仁。曰:「仁者先難而後獲,可謂仁矣。」
〈樊遲知を問ふ。子曰く、民の義を務め、鬼神を敬して之を遠ざくるを、知と謂ふ可し。仁を問ふ。曰く、仁者は難きを先にして獲るを後にす、仁と謂ふ可しと。〉
六之二一
子曰:「知者樂水,仁者樂山。知者動,仁者靜。知者樂,仁者壽。」
〈子曰く、知者は水を樂ひ、仁者は山を樂ふ、知者は動き、仁者は靜かなり。知者は樂み、仁者は壽し。〉
六之二二
子曰:「齊一變,至於魯;魯一變,至於道。」
〈子曰く、齊一變せば魯に至らむ、魯一變せば道に至らむ。〉
六之二三
子曰:「觚不觚,觚哉!觚哉!」
〈子曰く、觚、觚ならず、觚ならむや、觚ならむや。〉
六之二四
宰我問曰:「仁者雖吿之曰:『井有仁焉。』其從之也?」子曰:「何爲其然也?君子可逝也,不可陷也。可欺也,不可罔也。」
〈宰我問うて曰く、仁者は之に吿げて井に仁有りと曰はむも、其れ之に從はむか。子曰く、何すれぞ其れ然らむ。君子は逝かしむ可きなり、陷る可からざるなり。欺く可きなり、罔ふ可からざるなり。〉
六之二五
子曰:「君子博學於文,約之以禮,亦可以弗畔矣夫!」
〈子曰く、君子博く文を學んで、之を約するに禮を以てせば、亦以て畔むかざる可きかな。〉
六之二六
子見南子,子路不說。夫子矢之曰:「予所否者,天厭之!天厭之!」
〈子南子を見むとす。子路說ばず。夫子之に矢うて曰く、予に否なる所の者は、天之を厭せん、天之を厭せん。〉
六之二七
子曰:「中庸之爲德也,其至矣乎!民鮮久矣!」
〈子曰く、中庸の德たるや、其れ至れるかな、民鮮きこと久し。〉
六之二八
子貢曰:「如有博施於民,而能濟衆,何如?可謂仁乎?」子曰:「何事於仁,必也聖乎?堯舜其猶病諸!夫仁者,己欲立而立人,己欲達而達人。能近取譬,可謂仁之方也已。」
〈子貢曰く、如し博く民に施して、能く衆を濟ふことあらば如何。仁と謂ふ可きか。子曰く、何ぞ仁を事とせむ必ずや聖か。堯舜も其れ猶ほ諸を病めり。夫れ仁者は、己立たむと欲して人を立て、己達せむと欲して人を達す。能く近く譬を取るは、仁の方と謂ふべきのみ。〉
述而第七
七之一
子曰:「述而不作,信而好古,竊比於我老彭。」
〈子曰く、述べて作らず、信じて古を好む、竊に我が老彭に比す。〉
七之二
子曰:「默而識之,學而不厭,誨人不倦,何有於我哉?」
〈子曰く、默して而して之を識り、學んで而して厭はず、人を誨へて倦まざること、何ぞ我に有らむや。〉
七之三
子曰:「德之不修,學之不講,聞義不能徙,不善不能改,是吾憂也。」
〈子曰く、德の脩まらざる、學の講ぜざる、義を聞いて徙ること能はざる、不善をば改むること能はざる、是れ吾が憂なり。〉
七之四
子之燕居,申申如也,夭夭如也。
〈子の燕居には申申如たり、夭夭如たり。〉
七之五
子曰:「甚矣吾衰也!久矣,吾不復夢見周公!」
〈子曰く、甚しいかな吾が衰へたること、久しいかな吾が復た夢に周公を見ざりしこと。〉
七之六
子曰:「志於道,據於德,依於仁,游於藝。」
〈子曰く、道に志し、德に據り、仁に依り、藝に游ぶ。〉
七之七
子曰:「自行束脩以上,吾未嘗無誨焉!」
〈子曰く、束脩を行ふより以上は、吾未だ嘗て誨ふること無くんばあらず。〉
七之八
子曰:「不憤不啟;不悱不發;擧一隅不以三隅反,則不復也。」
〈子曰く、憤せざれば啓せず、悱せざれば發せず、一隅を擧ぐるに三隅を以て反せざれば、則ち復せざるなり。〉
七之九
子食於有喪者之側,未嘗飽也。子於是日哭,則不歌。
〈子喪ある者の側に食すれば、未だ嘗て飽かざるなり。子是の日に於て哭するときは、歌はず。〉
七之十
子謂顏淵曰:「用之則行,舍之則藏。惟我與爾有是夫!」子路曰:「子行三軍,則誰與?」子曰:「暴虎馮河,死而無悔者,吾不與也。必也臨事而懼,好謀而成者也。」
〈子顏淵に謂つて曰く、之を用ゐるときは則ち行ひ、之を舍くときは則ち藏す、唯〻我と爾と是あるかな。子路曰く、子三軍を行らば、則ち誰と與にせむ。子曰く、暴虎馮河、死して悔なき者は、吾與せざるなり、必ずや事に臨んで懼れ、謀を好んで成さむ者なりと。〉
七之十一
子曰:「富而可求也,雖執鞭之士,吾亦爲之;如不可求,從吾所好。」
〈子曰く、富而し求む可くんば、執鞭の士と雖も、吾亦之を爲さむ、如し求む可からずんば、吾が好む所に從はむ。〉
七之十二
子之所愼:齊,戰,疾。
〈子の愼む所は齊戰疾なり。〉
七之十三
子在齊聞韶,三月不知肉味,曰:「不圖爲樂之至於斯也!」
〈子齊に在りて、韶を聞くこと三月、肉の味を知らず。曰く、圖らざりき、樂を爲ぶこと斯に至らむとは。〉
七之十四
冉有曰:「夫子爲衞君乎?」子貢曰:「諾,吾將問之」。入曰:「伯夷叔齊,何人也?」曰:「古之賢人也。」曰:「怨乎?」曰:「求仁而得仁,又何怨?」出,曰:「夫子不爲也。」
〈冉有曰く、夫子は衞君を爲けむか。子貢曰く、諾、吾將に之を問はむとすと。入つて曰く、伯夷叔齊は何人ぞや。曰く、古の賢人なり。曰く、怨みたりや。曰く、仁を求めて仁を得たり、又何ぞ怨みむと。出でて曰く、夫子は爲けざるなり。〉
七之十五
子曰:「飯疏食,飮水,曲肱而枕之,樂亦在其中矣。不義而富且貴,於我如浮雲。」
〈子曰く、疏食を飯ひ、水を飮み、肱を曲げて之を枕とす、樂亦其の中に在り。不義にして富み且つ貴きは、我に於て浮雲の如し。〉
七之十六
子曰:「加我數年,五十以學易,可以無大過矣。」
〈子曰く、我に數年を加へて、五十以て易を學ばば、以て大過無かるべし。〉
七之十七
子所雅言:「詩、書、執禮,皆雅言也。」
〈子の雅言する所は、詩、書、執禮、皆雅言なり。〉
七之十八
葉公問孔子於子路,子路不對。子曰:「女奚不曰:『其爲人也,發憤忘食,樂以忘憂,不知老之將至云爾。』」
〈葉公孔子を子路に問ふ。子路對へず。子曰く、女奚ぞ曰はざる、其の人と爲りや、憤を發して食を忘れ、樂んで以て憂を忘れ、老の將に至らむとするを知らずと云爾と。〉
七之十九
子曰:「我非生而知之者,好古,敏以求之者也。」
〈子曰く、我は生れながらにして之を知る者に非ず、古を好んで敏くして以て之を求むる者なり。〉
七之二十
子不語:怪、力、亂、神。
〈子怪・力・亂・神を語らず。〉
七之二一
子曰:「三人行,必有我師焉。擇其善者而從之;其不善者而改之。」
〈子曰く、三人行くときは必ず我が師あり。其の善き者を擇んで之に從ひ、其の不善なる者は之を改む。〉
七之二二
子曰:「天生德於予,桓魋其如予何!」
〈子曰く、天德を予に生せり、桓魋其れ予を如何せん。〉
七之二三
子曰:「二三子,以我爲隱乎?吾無隱乎爾!吾無行而不與二三子者,是丘也。」
〈子曰く、二三子我を以て隱せりと爲すか。吾隱すこと無し。吾行ふとして二三子と與さざる者なし。是れ丘なり。〉
七之二四
子以四敎:文、行、忠、信。
〈子四を以て敎ふ、文行忠信。〉
七之二五
子曰:「聖人,吾不得而見之矣!得見君子者,斯可矣。」子曰:「善人,吾不得而見之矣!得見有恆者,斯可矣。亡而爲有,虛而爲盈,約而爲泰,難乎有恆矣!」
〈子曰く、聖人は吾得て之を見ず、君子者を見るを得ば斯れ可なり。子曰く、善人は吾得て之を見ず、恒ある者を見ることを得ば斯れ可なり。亡けれども有りと爲し、虛しけれども盈てりと爲し、約なれども泰なりと爲す、難いかな恒あらむこと。〉
七之二六
子釣而不綱,弋而不射宿。
〈子釣すれども綱せず、弋すれども宿を射ず。〉
七之二七
子曰:「蓋有不知而作之者,我無是也。多聞,擇其善者而從之,多見而識之,知之次也。」
〈子曰く、蓋し知らずして之を作す者有らむ。我は是なし。多く聞いて其の善き者を擇んで之に從ひ、多く見て之を識すは、知るの次なり。〉
七之二八
互鄕難與言。童子見,門人惑。子曰:「與其進也,不與其退也。唯何甚?人潔己以進,與其潔也,不保其往也!」
〈互鄕與に言ひ難し。童子見ゆ。門人惑ふ。子曰く、其の進むに與せん、其の退くに與せず、唯〻何ぞ甚しき。人己を潔くして以て進まば、其の潔きを與せん、其の往を保たず。〉
七之二九
子曰:「仁遠乎哉?我欲仁,斯仁至矣。」
〈子曰く、仁遠からむや。我仁を欲すれば斯に仁至る。〉
七之三十
陳司敗問:「昭公知禮乎?」孔子對曰:「知禮。」孔子退,揖巫馬期而進之,曰:「吾聞君子不黨,君子亦黨乎?君取於吳爲同姓,謂之吳孟子。君而知禮,孰不知禮?」巫馬期以吿。子曰:「丘也幸,苟有過,人必知之。」
〈陳の司敗問ふ、昭公、禮を知るか。孔子曰く、禮を知れりと。孔子退く。巫馬期を揖して之を進めて曰く、吾聞く、君子は黨せずと。君子も亦黨するか。君吳に取り、同姓たり、之を吳孟子と謂ふ。君にして禮を知らば、孰か禮を知らざらむ。巫馬期以て吿ぐ。子曰く、丘や幸なり、苟も過あれば、人必ず之を知らすと。〉
七之三一
子與人歌而善,必使反之,而後和之。
〈子人と歌うて善しとすれば、必ず之を反せしめて、而して後に之に和せり。〉
七之三二
子曰:「文,莫吾猶人也;躬行君子,則吾未之有得!」
〈子曰く、文莫は吾猶ほ人のごとし。躬君子を行ふことは、則ち吾未だ之を得ること有らず。〉
七之三三
子曰:「若聖與仁,則吾豈敢?抑爲之不厭,誨人不倦,則可謂云爾已矣!」公西華曰:「正唯弟子不能學也!」
〈子曰く、聖と仁との若きは、則ち吾豈敢てせむや。抑〻之を爲びて厭はず、人を誨へて倦まざるは、則ち謂ふべきのみ。公西華曰く、正に唯。弟子學ぶこと能はざるなり。〉
七之三四
子疾病,子路請禱。子曰:「有諸?」子路對曰:「有之。誄曰:『禱爾于上下神祇。』子曰:「丘之禱久矣!」
〈子疾病なり。子路禱らむと請ふ。子曰く、諸ありや。子路對へて曰く、之れ有り、誄に曰く、爾を上下の神祇に禱ると。子曰く、丘の禱ること久し。〉
七之三五
子曰:「奢則不孫,儉則固;與其不孫也,甯固。」
〈子曰く、奢るときは則ち不孫なり、儉なるときは則ち固なり。其の不孫ならんよりは、寧ろ固なれと。〉
七之三六
子曰:「君子坦蕩蕩,小人長戚戚。」
〈子曰く、君子は坦にして蕩蕩たり、小人は長へに戚戚たり。〉
七之三七
子溫而厲,威而不猛,恭而安。
〈子溫にして厲に、威ありて猛からず、恭にして安し。〉
泰伯第八
八之一
子曰:「泰伯,其可謂至德也已矣!三以天下讓,民無得而稱焉。」
〈子曰く、泰伯は其れ至德と謂ふべきのみ。三たび天下を以て讓る、民得て而して稱する無し。〉
八之二
子曰:「恭而無禮則勞,愼而無禮則葸,勇而無禮則亂,直而無禮則絞。君子篤於親,則民興於仁。故舊不遺,則民不偷。」
〈子曰く、恭にして禮無ければ則ち勞す、愼みて禮無ければ則ち葸す、勇にして禮無ければ則ち亂る、直にして禮無ければ則ち絞す。君子親に篤ければ、則ち民仁に與る、故舊遺れざれば、則ち民偷からず。〉
八之三
曾子有疾,召門弟子曰:「啟予足!啟予手!詩云:『戰戰兢兢,如臨深淵,如履薄冰。』而今而後,吾知免夫!小子!」
〈曾子疾あり、門弟子を召して曰く、予が足を啓け、予が手を啓け。詩に云く、戰戰兢兢として、深淵に臨むが如く、薄冰を履むが如しと。而今にして後、吾免るるを知るかな。小子。〉
八之四
曾子有疾,孟敬子問之。曾子言曰:「鳥之將死,其鳴也哀,人之將死,其言也善。君子所貴乎道者三:動容貌,斯遠暴慢矣;正顏色,斯近信矣;出辭氣,斯遠鄙倍矣;籩豆之事,則有司存。」
〈曾子疾あり、孟敬子之を問ふ。曾子言つて曰く、鳥の將に死せむとするや、其の鳴くや哀し、人の將に死せむとするや、其の言ふや善し。君子道に貴ぶ所の者三あり、容貌を動かして斯に暴慢に遠ざかり、顏色を正しうして斯に信に近く、辭氣を出して斯に鄙倍に遠ざかる。籩豆の事は則ち有司存せり。〉
八之五
曾子曰:「以能問於不能,以多問於寡,有若無,實若虛,犯而不校。昔者吾友,嘗從事於斯矣。」
〈曾子曰く、能を以て不能に問ひ、多きを以て寡きに問ひ、有れども無きが若く、實つれども虛しきが若く、犯せども校せず。昔者吾が友嘗て斯に從事へり。〉
八之六
曾子曰:「可以託六尺之孤,可以寄百里之命,臨大節而不可奪也。君子人與?君子人也!」
〈曾子曰く、以て六尺の孤を託す可く、以て百里の命を寄す可く、大節に臨んで奪ふ可からざるなり。君子人か、君子人なり。〉
八之七
曾子曰:「士不可以不弘毅,任重而道遠。仁以爲己任,不亦重乎;死而後已,不亦遠乎。」
〈曾子曰く、士は以て弘毅ならざる可からず、任重くして道遠し。仁以て己の任と爲す、亦重からずや、死して而して後に已む、亦遠からずや。〉
八之八
子曰:「興於詩,立於禮,成於樂。」
〈子曰く、詩に興り、禮に立ち、樂に成る。〉
八之九
子曰:「民可使由之,不可使知之。」
〈子曰く、民は之に由らしむ可し、之を知らしむ可からず。〉
八之十
子曰:「好勇疾貧,亂也。人而不仁,疾之已甚,亂也。」
〈子曰く、勇を好みて貧しきを疾めば亂る、人にして不仁なる、之を疾むこと已甚しければ亂る。〉
八之十一
子曰:「如有周公之才之美,使驕且吝,其餘不足觀也已!」
〈子曰く、如し周公の才の美有りとも、驕り且つ吝ならしめば、其の餘は觀るに足らざるのみ。〉
八之十二
子曰:「三年學,不至於穀,不易得也。」
〈子曰く、三年學びて穀に至さざるは、得易からざるなり。〉
八之十三
子曰:「篤信好學,守死善道。危邦不入,亂邦不居。天下有道則見,無道則隱。邦有道,貧且賤焉,恥也;邦無道,富且貴焉,恥也。」
〈子曰く、篤く信じて學を好み、死を守りて道を善くす。危邦には入らず、亂邦には居らず、天下道あれば則ち見はし、天下道なければ則ち隱す。邦道あるとき、貧しく且つ賎しきは恥なり、邦道なきとき、富み且つ貴きは恥なり。〉
八之十四
子曰:「不在其位,不謀其政。」
〈子曰く、其の位に在らざれば、其の政を謀らず。〉
八之十五
子曰:「師摯之始,關雎之亂,洋洋乎,盈耳哉!」
〈子曰く、師摯の始、關雎の亂、洋洋乎として耳に盈てるかな。〉
八之十六
子曰:「狂而不直,侗而不愿,悾悾而不信,吾不知之矣!」
〈子曰く、狂にして直ならず、侗にして愿ならず、悾悾として信ならざるは、吾之を知らず。〉
八之十七
子曰:「學如不及,猶恐失之。」
〈子曰く、學は及ばざるが如く、猶ほ之を失はむことを恐る。〉
八之十八
子曰:「巍巍乎,舜、禹之有天下也,而不與焉。」
〈子曰く、巍巍乎たり、舜禹の天下を有ちて而して與らざるは。〉
八之十九
子曰:「大哉,堯之爲君也!巍巍乎,唯天爲大,唯堯則之!蕩蕩乎,民無能名焉!巍巍乎,其有成功也!煥乎,其有文章!」
〈子曰く、大なるかな堯の君となる。巍巍乎たり。唯天を大なりと爲す、唯堯之に則る。蕩蕩乎たり。民能く名づくる無し。巍巍乎として其れ成功あるなり、煥乎として其れ文章あり。〉
八之二十
舜有臣五人,而天下治。武王曰:「予有亂臣十人。」孔子曰:「『才難』,不其然乎?唐虞之際,於斯爲盛,有婦人焉,九人而已。三分天下有其二,以服事殷、周之德,其可謂至德也已矣!」
〈舜臣五人ありて天下治まる。武王曰く、予亂臣十人ありと。孔子曰く、才難しと、其れ然らずや。唐虞の際、斯を盛なりと爲す、婦人あり、九人のみ、天下を三分して其の二を有ち、以て殷に服事す。周の德は其れ至德と謂ふ可きのみ。〉
八之二一
子曰:「禹,吾無間然矣!菲飮食,而致孝乎鬼神;惡衣服,而致美乎黻冕;卑宮室,而盡力乎溝洫。禹,吾無間然矣!」
〈子曰く、禹は吾間然すること無し。飮食を菲くして、孝を鬼神に致し、衣服を惡しくして、美を黻冕に致し、宮室を卑しくして、力を溝洫に盡す。禹は吾間然すること無し。〉
子罕第九
九之一
子罕言利,與命與仁。
〈子罕に利を言ふ、命と與にし、仁と與にす。〉
九之二
達巷黨人曰:「大哉孔子!博學而無所成名。」子聞之,謂門弟子曰:「吾何執?執御乎?執射乎?吾執御矣!」
〈達巷黨の人曰く、大なるかな孔子、博く學びて名を成す所無しと。子之を聞いて、門弟子に謂つて曰く、吾何をか執らむ。御を執らむか、射を執らむか、吾は御を執らむと。〉
九之三
子曰:「麻冕,禮也;今也純,儉,吾從衆。拜下,禮也;今拜乎上,泰也。雖違衆,吾從下。」
〈子曰く、麻冕は禮なり、今や純をするは儉なり、吾は衆に從はむ。下に拜するは禮なり、今上に拜するは泰なり、衆に達ふと雖も、吾は下に從はむ。〉
九之四
子絕四:「毋意,毋必,毋固,毋我。」
〈子四を絕つ。意毋く、必毋く、固毋く、我毋し。〉
九之五
子畏於匡。曰:「文王既沒,文不在茲乎?天之將喪斯文也,後死者,不得與於斯文也。天之未喪斯文也,匡人其如予何?」
〈子匡に畏す。曰く、文王既に沒して、文茲に在らずや。天の將に斯の文を喪さむとするや、後に死する者斯の文に與ることを得ざらむ。天の未だ斯の文を喪ささるや、匡人其れ予を如何。〉
九之六
大宰問於子貢曰:「夫子聖者與?何其多能也?」子貢曰:「固天縱之將聖,又多能也。」子聞之曰:「大宰知我乎!吾少也賤,故多能鄙事。君子多乎哉?不多也!」
〈大宰子貢に問うて曰く、夫子は聖者か、何ぞ其れ多能なるや。子貢曰く、固より天之に將聖を縱す、又多能なりと。子之を聞いて曰く、大宰我を知らむや。吾少きや賤しかりき、故に鄙事に多能なりき。君子多ならむや、多ならざるなり。〉
九之七
牢曰:「子云:『吾不試,故藝。』」
〈牢曰く、子云く、吾試ゐられず、故に藝ありと。〉
九之八
子曰:「吾有知乎哉?無知也。有鄙夫問於我,空空如也,我扣其兩端而竭焉。」
〈子曰く、吾知ることあらむや、知ること無きなり。鄙夫あり我に問ふ、空空如たり、我其の兩端を叩いて而して竭す。〉
九之九
子曰:「鳳鳥不至,河不出圖,吾已矣夫!」
〈子曰く、鳳鳥至らず、河、圖を出さず、吾已んぬるかな。〉
九之十
子見齊衰者,冕衣裳者,與瞽者,見之,雖少必作,過之必趨。
〈子、齊衰の者冕衣裳の者と、瞽者とを見れば、之を見るに少しと雖も必ず作つ。之を過ぐれば必ず趨る。〉
九之十一
顏淵喟然歎曰:「仰之彌高,鑽之彌堅,瞻之在前,忽焉在後!夫子循循然善誘人:博我以文,約我以禮。欲罷不能,既竭吾才,如有所立卓爾,雖欲從之,末由也已!」
〈顏淵喟然として歎じて曰く、之を仰げば彌〻高く、之を鑽れば彌〻堅し、之を瞻れば前に在り、忽焉として後に在り。夫子循循然として善く人を誘く。我を博むるに文を以てし、我を約するに禮を以てす。罷めむと欲して能はず、既に吾が才を竭す。立つ所ありて卓爾たるが如し、之に從はんと欲すと雖も由末きのみ。〉
九之十二
子疾病,子路使門人爲臣。病間,曰:「久矣哉,由之行詐也!無臣而爲有臣,吾誰欺?欺天乎?且予與其死於臣之手也,無寧死於二三子之手乎!且予縱不得大葬,予死於道路乎?」
〈子の疾病なり。子路門人をして臣たらしむ。病間にして曰く、久しいかな由の詐を行ふことや、臣無くして臣有りと爲す。吾誰をか欺かむ、天を欺かむや。且つ予其の臣の手に死せむよりは、無寧ろ二三子の手に死せむかな、且つ予縱ひ大葬を得ずとも、予道路に死せむかな。〉
九之十三
子貢曰:「有美玉於斯,韞櫝而藏諸?求善賈而沽諸?」子曰:「沽之哉!沽之哉!我待賈者也!」
〈子貢曰く、斯に美玉あらむに、匵に韞めて諸を藏さむか、善賈を求めて諸を沽らむか。子曰く、之を沽らむや、之を沽らむや、我は賈を待つ者なり。〉
九之十四
子欲居九夷。或曰:「陋,如之何?」子曰:「君子居之,何陋之有?」
〈子九夷に居らむと欲す。或るひと曰く、陋し。之を如何。子曰く、君子之に居る。何の陋しきことか之れ有らむ。〉
九之十五
子曰:「吾自衞反魯,然後樂正,雅頌各得其所。」
〈子曰く、吾衞より魯に反りて、然る後に樂正し、雅頌各〻其の所を得たり。〉
九之十六
子曰:「出則事公卿,入則事父兄,喪事不敢不勉,不爲酒困,何有於我哉?」
〈子曰く、出でては則ち公卿に事うまつり、入りては則ち父兄に事うまつり、喪事は敢て勉めずんばあらず、酒の困を爲さざること、何んぞ我に有らむや。〉
九之十七
子在川上曰:「逝者如斯夫!不舍晝夜。」
〈子川の上に在りて曰く、逝く者は斯の如きか。晝夜を舍かず。〉
九之十八
子曰:「吾未見好德如好色者也。」
〈子曰く、吾未だ德を好むこと色を好むが如き者を見ず。〉
九之十九
子曰:「譬如爲山,未成一簣,止,吾止也!譬如平地,雖覆一簣,進,吾往也!」
〈子曰く、譬へば山を爲るが如し。未だ成らざること一簣なるに、止むは吾が止むなり。譬へば地を平かにするが如し、一簣を覆すと雖も、進むは吾が往くなり。〉
九之二十
子曰:「語之而不惰者,其回也與!」
〈子曰く、之に語げて惰らざる者は、其れ回なるか。〉
九之二一
子謂顏淵,曰:「惜乎!吾見其進也,未見其止也!」
〈子顏淵を謂つて曰く、惜いかな。吾其の進むを見たり。未だ其の止むを見ざりき。〉
九之二二
子曰:「苗而不秀者,有矣夫!秀而不實者,有矣夫!」
〈子曰く、苗にして秀でざる者有るかな。秀でて實らざる者あるかな。〉
九之二三
子曰:「後生可畏,焉知來者之不如今也?四十五十而無聞焉,斯亦不足畏也已!」
〈子曰く、後世畏るべし、焉んぞ來者の今に如かざるを知らむや。四十五十にして聞ゆること無くんば、斯れ亦畏るるに足らざるのみ。〉
九之二四
子曰:「法語之言,能無從乎!改之爲貴。巽與之言,能無說乎?繹之爲貴。說而不繹,從而不改,吾末如之何也已矣!」
〈子曰く、法語の言、能く從ふこと無からむや、改むるを貴しと爲す、巽與の言、能く說ぶこと無からむや、繹ぬるを貴しと爲す。說びて繹ねず、從つて改めざるは、吾之を如何ともする末きのみ。〉
九之二五
子曰:「主忠信,毋友不如己者,過則勿憚改。」
〈子曰く、忠信を主とし、己に如かざる者を友とする毋れ、過つては則ち改むるに憚る勿れ。〉
九之二六
子曰:「三軍可奪帥也,匹夫不可奪志也。」
〈子曰く、三軍も帥を奪ふべし、匹夫も志を奪ふべからざるなり。〉
九之二七
子曰:「衣敝縕袍,與衣狐貉者立,而不恥者,其由也與!『不忮不求,何用不臧?』子路終身誦之。子曰:「是道也,何足以臧?」
〈子曰く、敝れたる縕袍を衣て、狐貉を衣たる者と立ちて恥ぢざる者は、其れ由か。忮はず求らず、何を用つてか臧からざらむ。子路終身之を誦す。子曰く、是の道や何ぞ以て臧しとするに足らむ。〉
九之二八
子曰:「歲寒,然後知松柏之後彫也。」
〈子曰く、歲寒うして、然る後に松柏の彫むに後るることを知る。〉
九之二九
子曰:「智者不惑,仁者不憂,勇者不懼。」
〈子曰く、智者は惑はず、仁者は憂へず、勇者は懼れず。〉
九之三十
子曰:「可與共學,未可與適道;可與適道,未可與立;可與立,未可與權。」
〈子曰く、與に共に學ぶ可し、未だ興に道に適く可からず。興に道に適く可し、未だ興に立つ可からず。興に立つ可し、未だ興に權る可からず。〉
九之三一
「唐棣之華,偏其反而;豈不爾思?室是遠而」。子曰:「未之思也,夫何遠之有?」
〈唐棣の華は、偏として其れ反れり。豈爾を思はざらむや、室是れ遠ければなりと。子曰く、未だ之を思はざるなり、夫れ何の遠きことか之れ有らむ。〉
鄕黨第十
十之一
孔子於鄕黨,恂恂如也,似不能言者。其在宗廟朝廷,便便言,唯謹爾。
〈孔子鄕黨に於ては恂恂如たり、言ふ能はざる者に似たり。其の宗廟朝廷に在りては、便便として言ふ、唯〻謹めるのみ。〉
十之二
朝與下大夫言,侃侃如也;與上大夫言,誾誾如也。君在,踧踖如也,與與如也。
〈朝にして下大夫と言へば、侃侃如たり、上大夫と言へば、誾誾如たり。君在すときは、踧踖如たり、與與如たり。〉
十之三
君召使擯,色勃如也,足躩如也。揖所與立,左右手,衣前後,襜如也。趨進,翼如也。賓退,必復命,曰:「賓不顧矣。」
〈君召して擯せしむれば、色勃如たり、足躩如たり。與に立つ所を揖するには手を左右にす、衣の前後襜如たり。趨り進むときは翼如たり。賓退くときは必ず復命して曰く、賓顧ずと。〉
十之四
入公門,鞠躬如也,如不容。立不中門,行不履閾。過位,色勃如也,足躩如也,其言似不足者。攝齊升堂,鞠躬如也,屛氣似不息者。出,降一等,逞顏色,怡怡如也。沒階趨進,翼如也。復其位,踧踖如也。
〈公門に入るときは鞠躬如たり、容れられざるが如し。立つに門に中せず、行くに閾を履まず。位を過ぐれば色勃如たり、足躩如たり、其の言ふこと足らざる者に似たり。齊を攝げて堂に升れば、鞠躬如たり、氣を屛めて息せざる者に似たり。出て一等を降れば、顏色を逞つて怡怡如たり。階を沒して趨れば翼如たり、其の位に復れば踧踖如たり。〉
十之五
執圭,鞠躬如也,如不勝。上如揖,下如授,勃如戰色,足蹜蹜如有循。享禮,有容色。私覿,愉愉如也。
〈圭を執るときは鞠躬如たり、勝へざるが如し。上ぐるには揖するが如く、下ぐるには授くるが如く、勃如として戰色あり。足蹜蹜として循ふあるが如し。享禮には容色あり、私覿には愉愉如たり。〉
十之六
君子不以紺緅飾,紅紫不以爲褻服;當暑,袗絺綌,必表而出之。緇衣羔裘,素衣麑裘,黃衣狐裘。褻裘長,短右袂。(必有寢衣,長一身有半。)狐貉之厚以居。去喪,無所不佩。非帷裳,必殺之。羔裘玄冠,不以弔。吉月,必朝服而朝。
〈君子は紺緅を以て飾とせず、紅紫は以て褻の服と爲さず。暑に當りて袗の絺綌は、必ず表して而して出づ。緇衣には羔裘、素衣には麑裘、黃衣には狐裘。褻の裘は長くし、右袂を短くす。必ず寢衣あり、長一身有半。狐貉の厚き以て居る。喪を去いては佩びざる所なし。帷裳に非ざれば必ず之を殺ぐ。羔裘玄冠しては以て弔せず。吉月には必ず朝服して朝す。〉
十之七
齊,必有明衣,布。齊必變食,居必遷坐。
〈齊には必ず明衣あり、布にてす。必ず寢衣あり、長一身有半。齊には必ず食を變ず、居は必ず坐を遷す。〉
十之八
食不厭精,膾不厭細。食饐而餲,魚餒而肉敗,不食。色惡不食,臭惡不食。失飪不食,不時不食。割不正不食,不得其醬不食。肉雖多,不使勝食氣。唯酒無量,不及亂。沽酒市脯不食。不撤薑食,不多食。祭于公,不宿肉。祭肉不出三日,出三日,不食之矣。食不語,寢不言。雖疏食菜羹瓜祭,必齊如也。
〈食は精を厭はず、膾は細を厭はず。食の饐して而して餲し、魚の餒して而して肉敗れたるは食はず、色惡しきは食はず、臭惡しきは食はず、飪を失へるは食はず、時ならざるは食はず。割正しからざれば食はず、其の醬を得ざれば食はず。肉は多しと雖も、食の氣に勝たしめず、唯〻酒は量無し、亂に及ばず。沽酒市脯は食はず。薑を撤せずして食ふ、多く食はず。公に祭れば肉を宿せず、祭肉は三日を出さず、三日を出づるときは之を食わず。食ふに語らず、寢ぬるに言はず。疏食菜羹と雖も瓜ず祭る、必ず齊如たり。〉
十之九
席不正不坐。
〈席正しからざれば坐せず。〉
十之十
鄕人飮酒,杖者出,斯出矣。鄕人儺,朝服而立於阼階。
〈鄕人の飮酒に、杖者出づれば斯に出づ、鄕人の儺するとき、朝服して阼階に立つ。〉
十之十一
問人於他邦,再拜而送之。康子饋藥,拜而受之,曰:「丘未達,不敢嘗。」
〈人を他邦に問へば、再拜して之を送る。康子藥を饋る。拜して之を受けて曰く、丘未だ達せず、敢て嘗めずと。〉
十之十二
廄焚,子退朝,曰:「傷人乎?」不問馬。
〈廄焚けたり。子朝より退きて曰く、人を傷へりや不と。馬を問ふ。〉
十之十三
君賜食,必正席先嘗之。君賜腥,必熟而薦之。君賜生,必畜之。侍食於君,君祭,先飯。疾,君視之,東首,加朝服拖紳。君命召,不俟駕行矣。
〈君食を賜ふときは、必ず席を正しうして先づ之を嘗む。君腥を賜ふときは、必ず熟して之を薦む。君生を賜へば、必ず之を畜ふ。君に侍食するとき、君祭れば先づ飯す。疾あるに、君之を視れば、東首して朝服を加へ、紳を拖く。君命じて召せば、駕を俟たずして行く。〉
十之十四
入太廟,每事問。
〈太廟に入つて事每に問ふ。〉
十之十五
朋友死,無所歸,曰:「於我殯。」朋友之饋,雖車馬,非祭肉,不拜。
〈朋友死して、歸する所なきときは、曰く、我に於て殯せよと。朋友の饋は、車馬と雖も、祭肉に非ざれば拜せず。〉
十之十六
寢不尸,居不容。見齊衰者,雖狎必變。見冕者與瞽者,雖褻必以貌。凶服者式之。式負版者。有盛饌,必變色而作。迅雷,風烈,必變。
〈寢ぬるに尸のごとくせず、居るに容せず。齊衰の者を見れば、狎れたりと雖も必ず變ず、冕者と瞽者とを見れば、褻なりと雖も必ず貌を以てす。凶服の者には之に式す、負版の者に式す。盛饌あれば、必ず色を變じて而して作つ。迅雷風烈には必ず變ず。〉
十之十七
升車,必正立,執綏。車中不內顧,不疾言,不親指。
〈車に升るときは、必ず正しく立ちて綏を執る。車中には內顧せず、疾言せず、親ら指さず。〉
十之十八
色斯擧矣,翔而後集。曰:「山梁雌雉,時哉時哉!」子路共之,三嗅而作。
〈色みて斯れ擧り、翔りて後に集る。曰く、山梁の雌雉、時なるかな、時なるかな。子路之を共す。三たび嗅いで作つ。〉